セレーナ・ゴメス「真実」を語る 心の病や難病を抱え苦しみもがいた日々

ゴメスには、ストレスの原因として思い当たるものがいくつかあった。当時の彼女は、正真正銘のアーティストとしての“声”を見つけられずにいたのだ。ディズニー子役という華やかなイメージから脱皮し、ファンたちと一緒に歳を重ねたいと願っていた。健康状態も不安定だった。気づくと、故郷のグランドプレーリーで思い描いた人生とはまったく違うものを歩んでいた。「子供のころは、25歳で結婚すると思っていた」と彼女は言う。「でも、実際は結婚なんて夢のまた夢だった。バカみたいに聞こえるかもしれないけど、自分の人生は終わったと本気で思っていた」

ゴメスは、名声を受け入れながら自分の道を歩み続ける同業者たちにこうした不安を打ち明けることができなかった。「セレブのイケてる娘たちのグループには、いつもなじめずにいた。芸能人の友達はテイラー(・スウィフト)だけ。芸能界は自分の居場所じゃないように感じていたのを覚えている。周りのみんなが充実した人生を送っていた。私も自分の立場には満足していたし、すごく幸せだった。でも……物質的に豊かだからといって、本当に幸せなのかな? って思うようになった」とゴメスは続ける。「自分が何者かわからなくなってしまったせいで、自分のことが好きになれなかった」

2018年には、自分にしか聞こえない声や音に悩まされるほどのストレスを抱えていた。精神的な負担は日を追うごとに増え、ついに心が悲鳴をあげた。ゴメスは当時のことを断片的にしか覚えていないと言うが、最終的に治療施設に入院したことは覚えている。何カ月間も被害妄想に取りつかれながら、誰のことも信用できなかった。周りの人はみんな敵だと思っていたのだ。ゴメスの友人たちは、当時の彼女はまったくの別人だったと振り返る。母親のティーフィーは、ゴシップサイトで娘の入院を知った。


PHOTOGRAPHY BY AMANDA CHARCHIAN FOR ROLLING STONE. DRESS BY PROENZA SCHOULER. CHOKER BY SIDNEY GARBER. EARRINGS BY COMPLETEDWORKS.

精神疾患の恐ろしい点は、誰にも終わりが見えないことだとゴメスは言った。たった数日間あるいは数週間で治る人もいれば、一生治らない人がいるのも事実だ。ゴメスは、自分がゆっくりと「精神疾患から抜け出しつつある」と感じた。医師から双極性障害と診断されたおかげで、これまでの不調の理由もわかった。だがそれは、壮絶な薬物治療のはじまりでもあった。確立された治療法がないため、医師たちはどれかひとつでも効果のあるものがあれば、という思いで大量の薬物をゴメスに投与した。

治療はある程度成功した。その代わり「抜け殻のようになってしまった」と、ゴメスは薬物の副作用の影響を明かした。「そこにあったはずの自分というものが、いなくなっていた」。退院後、ゴメスはひとりの精神科医のもとを訪れた。その医師は、彼女が必要以上の薬物を投与されていることに気づき、薬物を2種類まで絞り込んだ。するとゴメスは、徐々に自分を取り戻していった。「先生は私を快方へ導いてくれた」と彼女は話す。「それでも、あまりに多くの薬を飲んでいたせいで、体に溜まった薬物を体外に出さなければいけなかった。頭がぼんやりしていたので、言葉を覚え直す必要もあった。話しの途中で何をしゃべっていたか忘れることもあった。自分が双極性障害を患っていること、そしてこの病気と生きていくことを受け入れるのはとても大変だった」

Translated by Shoko Natori

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