セレーナ・ゴメス「真実」を語る 心の病や難病を抱え苦しみもがいた日々

ニューヨークのような大都会では、人々は滅多に干渉し合わない。ゴメスがこの街に惹かれるのも、そっとしておいてほしいからだ。「『ロサンゼルスが嫌いだって言うのは、もういい加減にしなさい』ってよく怒られるの」とゴメスは申し訳なさそうに言う。「でも、私のニューヨークでのスケジュールはとにかく最高。ニューヨークには私なりのルーティンがあるし、行きつけのジムやコーヒーショップもある。ニューヨークにいれば散歩もできるし、深呼吸をすることもできる。街そのものやそこで生きる人々から刺激をもらえるの」

ゴメスは、スペイン語の映画の撮影に向けて、スペイン語教室にも通う予定だ。曲を書くライティングセッションにも参加し、24曲あるニューアルバムの収録曲候補を仕上げる。レコーディングは、今年の年末からはじめるかもしれないとゴメスは言った。ゴメスは、ドキュメンタリーの劇中歌でもある、音楽製作ユニット・プロダクションのザ・モンスターズ・アンド・ザ・ストレンジャーズとの共作「My Mind and Me」を誇りに思っている。その一方で、24の新曲がこうしてこの世に存在し、ゴメスにもっと他のメッセージを伝えたいと思わせるのは、彼女の現在の心の状態に依るところが大きい。「『My Mind and Me』は、少し悲しい曲なの」とゴメスは解説する。「でも、私の人生のドキュメンタリー的な側面にピリオドを打つ素敵な方法でもある。この先は、私が自分の人生を謳歌したり、デートをしたり、自分との会話を楽しんだりする、明るいチャプターが待っているはずだから。ニューアルバムは、『セレーナはもうあの場所から抜け出せたのね。いまは自分の人生を生きているんだ』と思ってもらえるような作品になると思う」


PHOTOGRAPHY BY AMANDA CHARCHIAN FOR ROLLING STONE. DRESS BY SELF-PORTRAIT. GEMSTONE EARRINGS BY MONICA VINADER X KATE YOUNG

7月22日にゴメスは30歳の誕生日を迎えた。そこで彼女は、自分のためにパーティを開くことにした。「30までには結婚していると思ったから、自分で結婚式をあげることにした」と、自虐的に言う。20代のゴメスにとってかけがえのない人々(いまも連絡を取り合っている人も、疎遠になってしまった人も)を全員招待した。こうした人々と一緒に20代を称え、別れを告げたかったのだ。パーティは、カリフォルニア州マリブの個人宅を貸し切って行われた。角張ったコンクリートの外観が特徴的なモダンな建物は、赤いバラとロウソクの灯りによって優しい印象に変わった。人々はダンスを楽しんだ。ゴメスが着用したピンク色のヴェルサーチのドレスをはじめ、誰もが美しく着飾っていた。エレガントでスタイリッシュなパーティだったと、ゴメスは振り返る。大好きなマイリー・サイラスと、ゴメスの妹のグレイシー、腎臓ドナーのフランシア・ライサ、カミラ・カベロ、ビリー・アイリッシュ、オリヴィア・ロドリゴなどが駆けつけた。そしてもちろん、バーニーをモチーフにした誕生日ケーキも登場した。「ドリンクもおしゃれで、本当に素敵なパーティだった。すると、友達のカーラ(・デルヴィーニュ)がストリッパーたちを連れてきたの」とゴメスは楽しそうに笑いながら言った。「だから、エレガンスと狂乱がひとつになったパーティだったと言えるかもしれないわね」

私たちは、30歳という節目がゴメスにとっての再出発になってほしいと願わずにはいられない。だが、心の病というものは、そう簡単に克服できるものではない——ゴメス本人もこの点は重々承知だ。自分の成長が迷いのない直線的なものであるかと自問すること、ひいては自分がリバイバル——仮にそのようなものが存在するのなら——の真っただ中にあるという考えに抗うことは、成長のしるしなのかもしれない。「私にはもう、ゼロからの再出発みたいなストーリーは残っていない」とゴメスは言った。「私は30歳になった。これからもいろんなことを経験しながら生きていく」。希望の兆しがあるとしたら、それは次のようなものかもしれない。「心の病がなければ、私はここにいない、と自分に言い続けている。いま私がここにいるのは、ループス腎炎や双極性障害のおかげ。こうした出来事がなければ、いまごろは着飾ることしか頭にないウザい人間になっていたと思う。そんな自分を想像するだけで残念な気分になる」。たまには車の中でアデルの「I Drink Wine」を大音量でかけながら「自分自身を乗り越えられたらいいのに」と歌うのもいいだろう。「人生、山あり谷ありって感じね」とゴメスは言った。

ゴメスの人生は、彼女の手が届く限られた範囲において開かれていくだろう。ドキュメンタリーのプロモーション活動の準備はできているが、それが終わったらニューヨークに引っ越してしばらくは表に出ないつもりだとゴメスは言った。ニューヨークに借りたアパートメントの暖炉の写真を嬉しそうに私に見せる。ニューヨークの冬の「雪や身に染みるような寒さ」が好きだと言う。「ユダヤ人のおばあちゃんたちのそばにいるのが大好きなの。ブランケットにくるまって暖炉の前で本を読んだり、何かを観たりするのは最高」。その夢が叶う日は近い。きっとゴメスは本を読んだり、書き物をしたり、大好きな『ポートランディア』を観たりするのだろう。自分自身と会話をするかもしれない。居心地の良い室内でただのんびりしながら、心の健康を保つための努力も続けるだろう。「私がこんなに話すのは、しばらくの間はこのインタビューが最後かもしれない」。インタビューの終わりにゴメスは言った。「公開が楽しみだけど、私にとって過去のことになってくれたらいいな。それに、たまには雲隠れも大事よね」

帰り支度を整えると、ゴメスはもう一度私を強く抱きしめた。「世間はどう思うかな?」ドキュメンタリーの反応が気になるようだ。「それはさておき、今日はありがとう」とゴメスは言った。私も彼女に感謝の言葉を返す。インタビューを受けてくれただけでなく、私の話に耳を傾け、温かく受け止めてくれてありがとう。スーツケースを引きずりながら、私は表に出た。外は快晴だ。このストーリーはハッピーエンドではない。そもそも、このストーリーに終わりはない。ゴメスが言うように「人生、山あり谷あり」なのだ。これからも人生は続く。だからこれは終わりではない。

From Rolling Stone US.

Translated by Shoko Natori

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