プロデューサー瀬尾一三と紐解く、中島みゆき44枚目のオリジナルアルバム

乱世 / 中島みゆき

田家:アルバムの4曲目「乱世」。タイトルにびっくりしました。

瀬尾:初めちょっとディストピアっぽく始めているんですけど、どっかの工場地帯の感じっていうかメタリックな感じで。そこに子供がずっといて歌うって感じでやっていて。途中でビートが入ってから本人が歌うっていう。

田家:イントロでは、子供が焼け跡の中で歌っている風景が見えるというか。

瀬尾:無人の機械だけがあるというか、ちょっと荒廃したところにモノローグのようにいて、それから本人が歌うような感じ。いろんな感情が入って歌う。ある意味、アニメーションみたいに表情も何もないようなイメージでやっていました。

田家:デモテープはどういう感じだったんですか?

瀬尾:歌い方から僕もイメージするので、ちゃんと区別して歌っていましたよ。

田家:歌詞の「逆らってた 苛立ってた 歯向かってた とんがってた」って、これはそういう主人公がいる設定なんですかね?

瀬尾:無表情の子供が実はこれなんです。今の子供たちも、みんないい子たちだけど、変なところでSNSで暴れたりしてるっていうか。外見と中身が違うってことですよね。本当はみんないい子なんだろうけど、通過儀礼が必要というか。今の世の中もっと差が激しくなっている。抑圧されるじゃないですか。だから違うところで出てしまうのかもしれない。僕や田家さんの子供時代より今の子どもの方が大変かもしれない。僕たちは結構のんびりというか、戦後だったから結構ののほほんできたわけじゃないですか。自由にさせてもらったし、主義が変わったし。でも今はいろんなものにがんじがらめ。生活もがんじがらめ。友達の顔も見たことがない人たちが多くなってるわけじゃないですか。

田家:コロナで、学校に来てるのにマスク越しの顔がわからない。

瀬尾:マスクをとったら恥ずかしいとか。そういうものも含めて今乱れてますよね、世の中が。

田家:今の方が乱世だって歌だと思って聞くと、かなり違って聴こえます。

瀬尾:どうでしょうかね。こうやって言うとまた後で怒られるからあまり言いませんけど(笑)。

田家:今瀬尾さんがおっしゃった通過儀礼っていうのが、とってもいい言葉だなと思ったんですよね。

瀬尾:このぐらいいいだろう?が僕たちは許された時代だったわけですね。今の子供たちというか青少年というから見れば乱世でしょう。

田家:なるほどね。瀬尾さんがおっしゃった少年がいて、3番が今の世の中だとか出来事に対してちょっと俯瞰して歌っているっていうことなんだなと思ったりしました。この「誰のものでもない」っていうはどういう意味が?

瀬尾:俯瞰なんですよね。いろんなことが現実に起きていても、そこで常にすったもんだして生きてる人間は世の常というか。今までもずっとそうだったよなって。風とかそういうものは有史以前から変わってないけど、地上ではこういうことが起きていて常に乱世。でも空はいつも変わらない。目先のことで生きているのに精一杯なので、それを乱世と言っていると思います。

Rolling Stone Japan 編集部

RECOMMENDEDおすすめの記事


RELATED関連する記事

MOST VIEWED人気の記事

Current ISSUE