アングラの女王・浅川マキ、プロデューサー寺本幸司と辿る影と闇の世界

あたしのブギウギ / 浅川マキ

田家:1978年7月7日、『「浅川マキ・真夜中の池袋・始発まで」@池袋東映』の中から「あたしのブギウギ」。作詞が成田ヒロシさん、作曲が南正人さん。オリジナルは南さんでシングルとしても発売されてます。マキさんは77年のアルバム『流れを渡る』でカバーした曲ですね。

寺本:この曲、「南さあ、浅川マキに『プカプカ』みたいな曲、おまえらで作ってくんないかな」って注文したんですよ。マキは絶対こんな曲作れないし、だからぜひ作ってくれっていって出来た曲なんです。だからマキのために成田と南が作った曲。それを池袋東映でこういうふうに歌ってくれて、こういう録音物が残るっていうのも、ぼく個人としては非常に嬉しいというか、感慨深いものがあります。

田家:特にこの池袋東映にいろんなゲストも来てます。今回の6枚組のライブアルバムは65曲入ってるんですよね。曲のラインナップはどう思われました?

寺本:長い曲も多いし、喋りも現場に行ってりゃ面白いんだけど、突然その喋りから入ってもどうかなと思って、そうとう選曲には苦労しましたね。

田家:これ以外にもいっぱいあるわけですもんね。

寺本:あれもこれも入れたいと思ってしまう、けど、それは難しいんで、基本的にぼくが制作にかかわった曲っていうのを選んでますね。

田家:この曲はどうだったのかなと思いながら、先に曲をお聴きいただこうと思います。「リンゴ追分」。歌ってるのは原田芳雄さんです。

リンゴ追分 / 原田芳雄

田家:『1978年7月7日「浅川マキ・真夜中の池袋・始発まで」@池袋東映』の中から原田芳雄さんの「リンゴ追分」。

寺本:浅川マキは原田さんとこういうライを一緒にやったり、「シネマというか映画というかそういうの作りたいんで、原田さんに出てほしい」なんて、個人的な表現者として濃い付きあい方をしてたんですね。このライブのあとなんだけど、80年代に入ってバブルとかで日本の社会も文化もすっかり様変わりしましたよね。音楽シーンもシティポップとかフュージョンとか、そういうときに、たまたま原田芳雄さんが「マキ、おれは時代に合わせて呼吸するつもりはない」といったんだって。原田さんその一言が背筋にピーンと入ってきたとマキはいつもいっていた。萩原とここで決別するっていうこの晩、マキはどうしても原田さんに出てもらいたかった。原田さんの楽屋へ行ったとき原田さん、珍しく興奮緊張してるんですよ。それが全部この歌に出てるかなって、

田家:原田さんが「リンゴ追分」を歌いたかった?

寺本:あと2曲、リクエストもらって歌うんですけど、「りんご追分」は、ぼくらも聴きたかった。舞台袖で聴いているマキの嬉しそうな顔が忘れられません。

田家:映画館らしいそういうコラボレーションですね。もう1曲池袋東映の話を伺いたいと思うんですが、ディスク1と2にわかれた29曲。実際もっと多かったってことでしょう?

寺本:そうです。一晩中でしたから。

田家:で、ゲストにですね、つのだひろさんとか原田芳雄さんとか、南正人さんとか。

寺本:あと「めんたんぴん」と「山下洋輔トリオ」ですね。

田家:この始発までっていうコンセプトはどうやってお決めになってたんですか?

寺本:元々浅川マキは、蠍座でデビューしたでしょ。映画館であり芝居やる小屋じゃないですか。今みたいにライブハウスがどこそこにあるっていう時代じゃなかったんで、いわゆるホールでやるのはマキに似合わないって思っていたし、ATG新宿文化って映画館が1階にありましたから。蠍座の上に。12時20分に終わると埼玉の方にも八王子の方にも、みんな最終で帰れるです、学生が。だから12時20分に終わるってライをずっとやってきたんですけど、大晦日とか「始発まで」というオールナイト公演をやるようになったんですよ。新宿からは池袋に移って、池袋文芸座とか池袋東映とで年に4回ぐらいかな、オールナイトライ、やったんですよね。

田家:関西でそういうオールナイトみたいなことはおやりになってたんですか?

寺本:やりましたよ。大阪でも神戸でも、

田家:そういう音はあまり残ってない?

寺本:柴田は録っていたかもしれないけど、

田家:でも東映も隠し取りですもんね。隠し録りしてなかったらこういうライブボックスにはならないんですもんね。やっぱり違法だからいけないと一律に全部禁止ってことじゃなくて、そういうのがあった方が記録としてはいい場合もある。

寺本:外せないオールナイトライだから、当然ぼくも行った。でも1階のいちばん後ろのPAスペースあたりに居るから、2階には1度も行ってないんです。もし2階にあがって、音がどうのこうのってチェックに行ってたら、絶対、礒たちを見つけてますよ。

田家:当然もうやめろとなりますよね。

寺本:そうそう。最近つくづく思うんだけど、本当にきちんと生きていれば、出来事は偶然ではない必然でしか生まれない。そうじゃないと、手に入らないですよ、こんな音源。それがおれの長生きの原因かも知れない。(笑)

田家:そういうライブからもう1曲お聴きいただきます。「裏窓」。

Rolling Stone Japan 編集部

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