三井律郎と岡村弦が語る、結束バンドの音楽

みんなと一緒ならめちゃくちゃ弾ける、下北沢ならではの「ギターヒーロー」

ーありがとうございます。それでは、「このメンバーならこう弾きそう」というお話にも繋がることとして、「ギターヒーロー」という設定についてお尋ねします(主人公の後藤ひとりは「ギターヒーロー」の名で演奏動画の配信を行っている)。一口にギターヒーローと言っても様々な文脈があって、例えば、ナンバーガールの再結成最終公演でも出囃子でかかっていたテレヴィジョンの系譜と、それとは別の方面となるハードロック~ヘヴィメタルの系譜は、ギターソロが目立つ点では共通しますが、フレーズ構成や音作りは大きく異なります。このような複数のギターヒーロー像が混ざっているのが結束バンドの凄いところだと自分は思うのですが、それは制作にあたって意識されていましたか。

三井 まず、個人的な印象として、アニメに携わった以外のバンドを出してしまうのは良くないというのがあって。もちろんナンバーガールもアジカン(ASIAN KUNG-FU GENERATION)も僕らが居た界隈に影響を及ぼしたバンドですが、そういう上の世代の音楽が流れてきて、そしてそれを聴いた子たちが自分のバンドで……という解釈の繋がりがあって。僕自身は、レディオヘッドとかオアシスみたいな90年代の洋楽がどんどん日本ナイズされていって下北沢で進化を繰り返して、それに影響を受けた子たちがまたバンドを始めて……という日本独自の音楽だと思っているんですね、下北沢のギターロックというのは。そういう独特の文脈の先に結束バンドもある、というのをつくりたかった。なので、「この曲はこのバンドのここが」みたいにはあまり捉えてなくて、漠然としている感じではあります。

で、後藤の「ギターヒーロー」の設定については、めちゃくちゃ観たんです。“弾いてみた”動画を。作中だと、全員が知ってるんですよ。後藤のギターのことを。それくらい上手い。すぐにでもプロになれるようなところにいて。ただ、僕らの世代のギターヒーローってある種アイコン的な、タレント的なものを持ってる人たちが多いと思うんですけど、後藤のキャラクターって真逆じゃないですか。承認欲求はあるけど、いきなりソロを弾いて「みんなで盛り上がろうぜ」っていうタイプではない。それから下北沢のギタリストって、前に出てオラオラとかはしない人の方が多いんですよ(笑)。後藤も、すごいテクニカルなことをするのも実はAメロとかなんですよ。あれも下北沢っぽくて。

ーああ、なるほど!

三井 ギターロックの文脈では、ソロの方が簡単というのがすごく多いんですよ(笑)。あれって、みんな恥ずかしがり屋な部分もあるし、「オレ上手いだろ」ってのを出しちゃうと、もうそこの音楽から離れちゃう。いきなりメタル的な速弾きから始まるようなバンドは、あまり下北沢にはいないんですよ。裏でめちゃくちゃ動いてる、みんなと一緒ならめちゃくちゃ弾ける(笑)。そういうのを考えて作りました。

ーギターヒーローだけど、どちらかと言えば目立ちたがりではないというキャラクター性みたいなのも。

三井 本心では目立ちたがりなんです(笑)。承認欲求もあるんだけど、出せないというか。まあ最後まで悩んだ結果、テクニカルなソロもありますけど、大筋としてはそんな風には作っていないと思います。

ー確かに、テクニカルでも短いですよね。ソロパートが。

三井 そうです、そうです。「後藤、ここは調子乗ってもいいな」っていうところは弾きました。でも歌ってる時に鳴ってるギターの方が遥かに難しいと僕は思いますけどね(笑)。

ーそうですね。一般的な意味でのソロじゃないんだけど、右チャンネルのギターはずっとソロみたいな仕上がりというか。

三井 そうそう。下北沢の文脈にも、その方が合っている気がします。

ーはい。それで、本当にいろんなフレーズが出てきますが、これは全てが下北沢的な文脈に回収できるものなんでしょうか。

三井 僕はそういうふうに思ってます。後藤のクセみたいなのも幾つか作ったんですね。似たフレーズが出てきたり、ダブルチョーキングだったり、トレモロ奏法だったり。ああいうものがオルタナとかギターロックのある種のアイコンというか。僕の印象として。

ー「ひとりぼっち東京」のイントロとか。

三井 そうそうそう。ああやって場を持っていく人たちをたくさん観てきたし、僕が持っているキャパの中でそういうのを全部つぎ込んだ感じですかね。

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