三井律郎と岡村弦が語る、結束バンドの音楽

ライブシーンの音作り、アニメならではのリアリティ

ーこの流れで劇中のライブ音源について聞かせてください。例えば第8話(「ぼっち・ざ・ろっく」)でのライブ、「ギターと孤独と蒼い惑星」では、まずドラムがもつれていて、それを軸に聴くとギターやボーカルも大きくズレているように感じられます。しかし、続くぼっちギター独奏からの「あのバンド」では見違えるようにアンサンブルが締まる。こういった音の演出が本当に素晴らしいですが、そういうことも併せて、ライブシーンの作り込みについてはどう考えていたのでしょうか?

岡村 あそこに関しては、後藤が演奏を合わせるのが苦手というよりも、単純に初ライブでみんながすごく緊張しちゃってます、お客さんがいなくてアウェー感があるというなかで、意外と一番緊張しちゃってズレたのがドラムということですね。

三井 (笑)後藤はちゃんと冷静なんですよね。

岡村 実は、音源的な話のからくりで言うと、後藤とベースの山田は全くズレてません。ちゃんとした演奏のままなんですけど、ドラムが一人だけ極端にズレることで全部ぐちゃぐちゃになってしまう。喜多ちゃんのギターもちょいちょいミストーン入れてるんですけど、山田とぼっちは一切ミスってません。その上で、歌はズレたやつに合わせて歌ってもらったんで。



ーボーカル録りはアフレコの後にいきなり始まったという話も聞きました。

三井 そうですね。あれは僕もたまげました(笑)。

岡村 アフレコのときに歌パートも録るね、というのは他作品でもあるんですが、通常はセリフを録る前とか後、違う時間にやるんですね。それが本当に突然やったんですよ。直前までセリフを喋ってて、みんながいるなかでそのまま歌にいく。メインの4人は基本的に一緒の部屋で録っていたんですが、そうやって残り3人を従えた状態で(笑)。

三井 あの歌の感じとか本当に凄いですよね。リアルすぎて。あれは音響監督さんですか?

岡村 そうですね。音響監督の藤田(亜紀子)さんが、どれくらいの温度感や緊張でやるかは演技的な面もあるからアフレコスタジオで録りたいと。それに続く「あのバンド」も録り直し入れてるんですけど、それは歌録りのときに別テイクで。ライブでちょっと緊張が解けてきましたよというくらいの温度感で一発録りしたものです。

ー恐ろしくも興味深いお話をありがとうございます。ドラムに関しては、あえてああいう感じに叩いてもらったという話を読んだのですが、ヨレ方の指示などは具体的にされましたか。

岡村 「けっこうズレてください」と言いました。例えば、音楽業界の人間が観たときに「あのシーンのズレ方ヤバくね?」「あんなぐちゃぐちゃにする必要ある?」という話になるのは、我々サイドの話で。あれぐらいズレてないと、一般のお客さんが逆に気付きもしないというか。だから「ぐだぐだにやっちゃってください」と言いました。

三井 初めて聴かせていただいたときは「えっ? うわーこれは!」と思ったんですけど、絵がつくと変わりますね。印象が。

ー確かに。あそこはヨレた音に絵を当ててる感じですか?

岡村 そうです。

三井 すごくいいですよね。

ーそれでは最終回の文化祭ライブについても。「星座になれたら」で弦が切れた後のボトルネック奏法ですが、あのソロのフレーズはどのような発想から構成されましたか。

三井 実はどこにも喋ってないんですけど、僕、制作中に読み返したんですよ。原作を。アレンジを進めている時点では、わりとメロディアスなフレーズになるだろうと思ってたんですよね。スライド奏法だし。でも原作では「すげー、速弾きしてる」みたいなことを、世紀末的風貌の人たちが言うんですよ。だから「スライドで速弾きってどういうことですかね?」という話に弦さんとなって。なので、最後の速いところは試行錯誤しました。あまり難しいと咄嗟にやった感じにはならないので、ちゃんとメロディを後藤が弾くようにしてあげた方がいいなと思って。

岡村 でもあのフレーズ、瓶で弾くの本当に難しかったですよね。(弾いてみた動画で撮影したときは)何回もやり直してた。

三井 もうやらない方がいいですよ(笑)。絶対やめた方がいい。自分が弾くなんて思ってなかったですから。

岡村 さすがにスライドバーなら大丈夫なんだけど、こういう瓶だと。

三井 皆さんは音と映像を一緒に観られての印象だと思うんですけど、我々は基本、絵を見る前に音を作らなきゃならないので。想像でしかないですよね。



ーなるほど(笑)。ボトルネック奏法だからブルース的なのを意識した、みたいなことではないんですかね。

三井 あのコード進行でメロディを弾くのであれば、わりとそういうふうになってしまうだろうなっていう。まあ後藤がサザンロックを聴いてるかというと、そうではないと僕は思ってます。

ーデモの時点ではシティポップ的だったという話を先ほど伺いましたが、仕上がりは比較的ファンクに近い感じで。

三井 そうですかね?……いや、ファンクではないですね。ああいうのを下北沢のエモいバンドがやるにあたっての、解釈の仕方というか。ベースもより歪んでるし、ハイハットもめちゃくちゃシーシーしていて。あれは弦さんにお願いしてああいうふうになっています。あまりにもファンクとかシティポップの方にいくと、「下北沢のバンド」とかけ離れてしまう。一曲だけ急に「どうした?」ってなるんで。

岡村 あの曲、ドラムも「これは本当ならデッドでしょ」って。スタジオで毛布吊って、響いてないペタンとした鳴りにしてみたんですけど、結局やめたんです。

三井 合うは合うんだけど、結束バンドとは違うかなって。「星座になれたら」が一番難しかったとは思うんですけど、それはアレンジが難しかったのではなくて、他の曲との整合性、下北沢のバンドとしてあれをやることへの落とし込みに苦労した。「シティポップにしてください」と言われたら、それはそれで我々は「はい、わかりました」とやるんですけど、後藤とか虹夏ちゃんがやっているイメージにはどうしてもならなかった。なので、結果的にああいうふうになりました。

ー録音の話を伺っていて思ったのですが、アルバム音源と、ライブハウスのSTARRYや体育館でのライブシーンとでは、場の響き方の違いもかなり考慮されましたか?

岡村 音響作業の最後、効果さんによる音響ダビングの段階で、音源の方では付けているディレイの処理やミックスのギミックを外してますね。音源では、ダブリングといって2回歌って重ねて広がりを出しているんですけど、ライブでは1個だけにするなど、メンバー以外の音が出ないようにしている。厳密に言うと、音源では例えばAメロ弾き終わりの音が伸びてBメロ頭のギターに被っていたりするんですが、ライブではそれが一切無いように組み替えてます。ギターが2本までしか鳴らないようにしてる。

三井 細っかいですよね(笑)。最高だなって思う。

岡村 曲が始まる前と終わった後のハムノイズ、ジーって鳴ってるのもライブでは取らない。そういう「ライブっぽく」みたいな処理をこっちでやって、納品して、僕も監修に行って。音響のところで、STARRYっぽい響きや体育館っぽい響きを作りました。ただ、アニメとして考えたとき、本当のSHELTERのデッドさ、残響がない感じをやってしまうと、今度はアニメとして面白くなくなる。やっぱり映像と一緒に観たときに、「ライブだ」っていうとみんなある程度は「ライブっぽい残響がついてるもんだ」と思うもので、そこに「いや、SHELTERはこうなんですよ」と言うと、逆にリアリティがなくなってしまう。わかりやすい話で言うと、アニメで銃を構えると必ず「スチャッ」っていうじゃないですか。

ーSFアニメで、宇宙空間で音が鳴るみたいな。

岡村 そうです! 宇宙空間でロケットが飛ぶ瞬間に「ゴォォォ」ってなるけど、宇宙に音はないですから(笑)。それと同じようなことで、ライブハウスだよって言って響きをなくすと、それはそれで成立しない、とはいえ……というところの中庸をとってます。最初はZEPPくらいの広さだった。でもそれじゃ広いのでちょっと小さくしてもらったり。体育館は体育館で木の響きを意識しましたね。

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