金原ひとみが語る、初めて10代の目線で「青春小説」を書いた理由

金原ひとみ(Photo by Mitsuru Nishimura)

小説家・金原ひとみが新作長編小説『腹を空かせた勇者ども』を刊行した。

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本書は、『文藝』に4回に渡って掲載された小説をまとめたもの。「陽キャ」の中学生レナレナと、その母親で現在「公然不倫」中のユリ、そしてレナレナの友人たちをめぐるある種の「青春小説」となる本作は、これまで人間のダークサイドを深く抉るような物語を書き続けてきた金原にとって「新境地」ともいえるもの。母親とのコミュニケーション不全や、友人とのすれ違いや衝突に悩みながらも、コロナ禍でたくましく成長していくレナレナの姿に、きっと誰もが深い感動を覚えることだろう。

レナレナと同じ年頃の娘を持つ金原。本作に込めたメッセージについてじっくりと語ってくれた。

─新作『腹を空かせた勇者ども』は、中学生の主人公レナレナ(玲奈)と、その母親のユリ、そしてレナレナの友人たちをめぐるある種の「青春小説」ですが、どんなところから着想を得たのでしょうか。

金原:私には高校一年の長女がいるのですが、中学校に入学したまさにそのタイミングでコロナ禍が始まって。まだ誰も友人がいない状態のままリモートで「初めまして」をしたり、休校が解除されてもクラスの半数ずつ登校しなければならなかったり、大人たちから見れば、「これで大丈夫なのだろうか」と思うような環境に置かれていたんです。

ところが本人たちはとても楽しそうにしていて、友達もどんどん増やしていて。InstagramなどSNSを活用した、これまでとは違う形でのコミュニケーションの広がりがありますし、大人よりもずっとしなやかに生きている様子に驚かされることが多かったんです。そんな彼らを見ているうちに、「コロナ禍と共に生きる生活」を彼女たちの視点で書いてみたくなって。最初は読み切りのつもりで書いたのですが、「このキャラクターで続けて書いてみないか」と編集部に言ってもらえたので、それで連作という形になりました。

─子供たちの交友関係の広げ方は、親として心配なところもありますか?

金原:そうですね、確かに「あの子は友だちの友だちだよ」とか言われると「そもそもその友だちもどこの子なの?」「ほとんど知らない人じゃん」と思わなくもないですが(笑)、子どもたちは子どもたちで割としっかり考えているところがあって。相手との交友関係の密度によって、繋がるアカウントを使い分けたりしているんですよね。アカウントは3つくらい持っているのが普通、らしいですし、プライバシーを守るための危機意識も日々アップデートしているんだな、と感じます。親の方でも、例えば小説の中にも出てくるzenlyのような、GPSで位置情報を共有できるアプリを3つくらいインストールして見守っています。

─3つも?(笑)

金原:というのも、娘が「やっぱこれじゃなくてこっちにするわ」みたいな感じでアプリをいろいろ変えるんですよ。それに合わせて私も新しいアプリをインストールしなければならなくて。そのせいで私も位置情報アプリに詳しくなってしまいました。

─娘さんは、金原さんとかなり性格が違うようですね。

金原:長女はめちゃくちゃ「陽キャ」な子なので、とにかく驚くことばかりです。桜が満開らしいよって言ったら、まじかって言いながら今日お花見行かない? って、二秒で友達にLINEしてます。今日予定あるって断られたら、すぐに違う子に誘いのLINE入れてて。私は誰か誘おうかなってLINEの友達をスクロールして、まあ花見後のお店とか探すのめんどいし、皆忙しいだろうし、となって結局誰も誘わない人なので眩しいです。コロナ禍という状況の中では、彼女みたいに乖離のないキャラって本当に強い。大人みたいなしがらみもないですし、「人からどう見えるか?」よりも自分がどうしたいかをかなり優先して行動している。そういう「強さ」を持ってコロナ禍と対峙する様子にインスパイアされましたね。

長女は「玲奈そのまんま」というわけではもちろんないですが、属性は似たところにあります。玲奈はお母さんとはかなり考え方が違うと感じているけど、だからといってそこで切り捨てるとか達観するとかではなく、常に他者に直球でぶつかっていくキャラクターにしたかったんですよね。

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