ナッシング・バット・シーヴスが語る「人間の貪欲さ」をテーマにしたコンセプト・アルバム

―なるほど。ソングライティングのエクササイズとしてコンセプトに沿って、曲を作るということをやってみたわけですね。ところで、“デッド・クラブ・シティ”というコンセプトを立ててから全11曲を書き下ろしたのでしょうか、それとも何曲か作ったところで、楽しみながら曲を書くならコンセプト・アルバムに発展させるべきだと考えたのでしょうか?

その両方が組み合わさった感じだったと言えるね。すでに書き始めていたり、頭の中にあった曲がいくつかあったりしたんだけど、“City”という言葉が何度も出てきたんだよね。ロンドンに住んでいて、常に都会のライフスタイルを経験しているからかもしれない。先に数曲あって、コンセプトができてきた時に、すでにあった曲の歌詞をコンセプトに合わせて一部書き換えたけど、僕達としては、コンセプトがあっても1曲1曲を独立したものとして聴けるようにしたかった。コンセプトが裏にあるって知らなくてもちゃんと聴けるようにね。それが僕達にとってはとても大事なことだったんだ。コンセプトのことなんて気にしないカジュアルなリスナーもいるからね。そういうリスナーがいるのはいいことだと思う。だから、コンセプトそれを知らなくても聴いていられる曲にすることが大事だった。と言いつつ、そうだね、コンセプトが決まってから書いた曲があるのは間違いない。コンセプトを立てよう!というのはパッと閃いたんだ。それで「Welcome To The DCC」を書いた。コンセプト・アルバムにすることを決めてから最初に書いたのがその曲だった。コンセプトへのイントロダクションとしてね。



―なるほど。それで「Welcome to the DCC」(DCCへようこそ)なんですね。

あの曲はかなり早くできたよ。そのコンセプトに入り込めるってことですごくワクワクしていたからね。ほとんど特権みたいに感じていた。おふざけなくらい壮大な感じでさ。でもこの曲はイントロダクションとして作っていただけで、リリースすることになるとは思っていなかったんだ。

―その「Welcome To The DCC」では、「If you dream it, you can have it. If you believe it, it can happen.」と歌っていますね。なんとなくメタバースやヴァーチャル・リアリティを連想させるのですが。

全体としてのアイデアは、人間の貪欲さだったんだ。このDCC(Dead Club City)という会員制クラブのメンバーは何でも欲しがる、そしてすべてを手に入れて上級国民でいたい人達なんだ。手に入れられるものだったら何でも持っていたいんだ。そういうオートクチュールなライフスタイルを送っている。そんな世界にいるとき、あるいは外からそういう世界を見て、本当に望んでそこにいるのか!?と疑問を投げかけるのがコンセプトだね。会員制クラブの一員ではあるけど、本当にそこにいることに満足しているのか!?と言うか。何もかもが外の世界よりもいいところという概念は本当なのか、欲しいものがすべて手に入った状態というのは果たしていいものなのか!? 基本的にはイギリス国内のエリート意識や階級意識をおちょくっているんだ。または世界全般のね。というのも、イギリスは階級問題がものすごく大きいからね。実際、上流階級に身を置いたところで、手に入るからと言って本当に欲しいものなのか、夢に見るようなものが手に入って本当にハッピーなのか。豊かになって大金持ちになっても本当に幸せなのかっていう。

―エリート意識や階級意識をおちょくっているそうですが、あくまでも疑問を投げかけているわけですね?

そうだね。僕自身もそうだけど、別に要らないって人達もいれば、そういう富が欲しい人達もいるからね。

Rolling Stone Japan 編集部

RECOMMENDEDおすすめの記事


RELATED関連する記事

MOST VIEWED人気の記事

Current ISSUE