ナッシング・バット・シーヴスが語る「人間の貪欲さ」をテーマにしたコンセプト・アルバム

―アルバム全体を貫く1つのストーリーがあるんだとしたら、どんなストーリーなのか、簡単に教えていただけますか。コンセプト・アルバムとして楽しむだけじゃなくて、1曲1曲楽しむという人もいるとおっしゃいましたが、逆にコンセプト・アルバムとしてこのアルバムを楽しもうという人にとって、1つのストーリーの流れがわかると、アルバムのことを理解しやすいと思うんですよ。

うん。さっきも話したけど、どの曲も単品としても意味のあるものとして聴けるものにするという考えがあったんだ。コンセプトのことは別に考えなくても「ああ、この歌詞が好きだ。ここのメロディが好きだ」って思える曲が素晴らしい曲だと思うし、とても大事なことだからね。と言いつつ、全体を繋げる“糸”があるのは間違いない。DCCというのは街サイズの会員制クラブで、みんなが一員になりたがるけど、本当に入りたいものなのかっていう。各曲にはそれぞれストーリーラインがあるんだけど、1つ例を挙げるよ。DCCの話を聞いたカップルがDCCに入るために車を走らせているという内容の曲が、最新シングルの「Overcome」なんだ。



その他にもいろいろなストーリーがあるよ。どれもそれぞれの曲の登場人物の意見なんだ。クラブの一員だったり、入りたい人だったり、本当に入りたいと思っているのか……入りたいと心から思っている人もいるだろうし、そうでない人もいる。そんなライフスタイルが欲しいという人もいるけど、そうじゃない人もいるからね。ただ、僕達からみんなに「このストーリーはこういうことなんだ」と説明するよりも、まずは曲を聴いてほしい。まずは、その曲を“呼吸して”どんなストーリーなのか自分で考えられるのがいいと思うしね。

―わかりました。日本盤がリリースされたら、歌詞の対訳を読みながら、改めて聴いてみたいと思います。コンセプト・アルバムということにこだわるのもどうかと思うので、コンセプト・アルバムにまつわる質問は次で最後にしたいと思います。これまでコンセプト・アルバムと呼ばれる作品が多数作られてきましたが、その中で今回インスピレーションになったアルバムはありましたか?

あるよ。今回のインスピレーションになったのは『ジギー・スターダスト』だったんだ。(デヴィッド・)ボウイのね。あのアルバムの中でコンセプトに実際に沿っていた曲は正味2、3曲しかなかったと思う。だけど、あのアルバムを取り巻いていたものすべて……アート・ディレクションだったり、MVだったり、服のスタイリングだったり、彼が温めていたグッズのアイデアだったり、そういうのがすべて1つの世界にリンクしていた。そういうところが僕達にとってすごくインスピレーションになったね。それで、僕達も1つの世界を作ることにしたんだ。僕達のMVもアートワークも、ライブのステージ演出もそうだし、僕達の着ているもののスタイリングも、みんな細かいところで繋がっているんだ。たとえば、僕達が現実世界で作ったパンフレットがMVの中でも使われていたりする。『ジギー・スターダスト』はそういう意味で一番大きなヒントになったんだ。実際にコンセプトに当てはまる曲は2、3曲しかなかったけど、彼が作った“世界”があったってことだね。すごく強いインスピレーションを受けたよ。お陰で僕達もクリエイティヴな姿勢で臨むことができたし、MVやアートワークなど、いろいろなものをリンクしようと考えたんだ。

―なるほど。『ジギー・スターダスト』は僕も大好きなアルバムなんですけど、おっしゃるとおりコンセプト・アルバムでもありつつ、1曲1曲聴いてもどの曲もかっこいいアルバムだと思います。そういう意味では今回の『デッド・クラブ・シティ』と通じるものがあるんじゃないかというふうに今お話を聞いて思いました。

ありがとう。僕達はキッズの頃にバンドを始めて以来、アルバムの1曲1曲が、どんなプロダクションを施したとしても、どんなひねりをきかせたとしても、MVも曲も素晴らしいものにしたいという気持ちが強いんだ。とても大切なことだと思っている。どの曲もアコースティック・ギター1本でプレイしても聴けるようないい曲でないといけない。ボウイはそういう意味でいつもインスピレーションを与えてくれるんだ。彼はいつもクリエイティヴなアイデアが素晴らしかったし、プロダクションのアイデアも豊富だった。でも、その根底にはいつだって素晴らしい曲があったからね。それが一番だよ。

Rolling Stone Japan 編集部

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