ナッシング・バット・シーヴスが語る「人間の貪欲さ」をテーマにしたコンセプト・アルバム

―サウンド面の話も聞かせてください。今回のアルバムはR&Bやポップの要素を導入した前作の『モラル・パニック』の延長上にある作品だと思うのですが、今回、シンセ・サウンドの比重が増えたという印象がありました。今回のアルバムを作る上で、サウンド面ではどんなテーマがあったのでしょうか?

シンセ・サウンドの比重が増えたっていうのは、ドム(・クレイク/Gt, Key)が新たに買ったシンセの影響だね。80年代の、すごいヴィンテージなんだ。でも、こういうサウンドを作りたいというのはなかった。僕達はずっとそうやってきた。初めてのアルバム(2015年の『ナッシング・バット・シーヴス』)の曲を書いた時の目論見も、僕の声に合った素晴らしい曲を、全力で書こうということだった。どんなスタイルでやろうということはあまり考えなかったんだ。だから、あのアルバムはいろいろなジャンルがミックスされているんだと思う。僕達はいろいろなものを試していただけだったからね。それがその後、ナッシング・バット・シーヴスらしさになったんだ。

僕達はいわゆるプレイリスト・カルチャーの最前線にいる。僕個人はジャズからヘヴィメタルまで何でも聴くんだ。膨大な音楽の大ファンだよ。僕は1つのジャンルからだけ影響を受けているわけではない。いろいろなものから多大なインスピレーションを得ているんだ。リズム&ブルース、ソウル、ジャズ、ポップ、R&B。ジョー(・ラングリッジ・ブラウン/Gt)はアメリカーナ、トム・ペティ、70年代のロックの影響が強くて、ドムはジャスティスというフランスのハウス系デュオや、80年代のプリンスみたいなプロダクションが大好きだね。だからそんな3人が集まると、お互いに「こういうのをすごくやってみたい」とか「これで遊んでみたい」とか言い合えるし、何でもトライすることにすごくオープンなんだ。ナッシング・バット・シーヴスのフォーマットというのは1つのジャンルに固執するものではなくて、常に実験から生まれるものなんだ。

だけど、なぜかナッシング・バット・シーヴスらしい音というのがある。思うに、その要因の1つは僕の声がすべてを結び付けているということ。そして2つ目は、バンド内にドムというプロデューサーがいるということじゃないかな。あいつの中にナッシング・バット・シーヴスのサウンドというのがあって、ナッシング・バット・シーヴスのサウンドの作り方を心得ているんだ。あいつが自分で作ったものだからね。そのサウンドがあるから、ソウルだろうとR&Bだろうと、ロックやヘヴィメタルであろうと、どんな曲でも、あいつにはあのサウンドを作る術があるし、僕もその上に自分の声を乗せることができる。だからやりたいことが何でもできるような感じなんだ。

ただ、僕自身は壮大なロックのヴォーカルやロックのメロディを歌うのはちょっと飽きてきた。だから、よりソウルフルなメロディやヴォーカルで実験してみたいと思ったんだ。自分が聴いてきたものを見せるいい機会だと思ってね。僕はソウル・ミュージックを聴いて育ってきたから、それを取り入れるのもいいなと考えたんだ。

―最後の質問です。UKを代表するロック・バンドに成長した自分達は今後、どういうふうに音楽を作っていくべきだと考えているのでしょうか?

(照れ笑いしながら)いい質問だね。その質問は、メンバーそれぞれ答えが違うんじゃないかな。僕の場合は、バランスを取りたいという夢があってね。このバンドを続けて、アリーナでライブをやったり、フェスのヘッドライナーを務めたりして、思いのままに曲を書きたい。基本的には今やっていることだね。それを成長させ続けたい。

一方で僕には別の夢もあって照れ笑い、僕はこのクレイジーなキャリアを続けながらでも家庭を持って、普通の生活を送ることができると信じているんだ。僕は今までロック・スターになりたいとひたすら願いながら育ってきた。それだけだったんだ。でも30歳になった今は、もちろん今もその夢は持ち続けているけど、同時にそれとバランスが取れるものも望むようになった。だからメンバーそれぞれ答えが違うと思うんだよね。メンバーの中には、50歳までひたすら働きたい奴もいるかもしれない。それはそれでクールなことだしね。

バンドとしてはイギリス国内でフェスのヘッドライナーをやりたい。そんなに遠い先のことじゃない気がしているよ。アリーナの動員数もどんどん大きくしていきたいし、ヨーロッパだけでなくアジアやアメリカにも勢力を拡大していきたいね。とにかく自分達の心の赴くままに書いていきつつ、最高の曲を作っていくことが大前提だ。勤勉さはキープしていかないとね。僕個人としては、そういうものを実現するためには、休息とライブ活動のきちんとしたバランスが必要だという思いが強いんだ。成長し続けていくためにはね。もう12年やっているし、僕にとってはとても大切なことだよ。僕はこのグループのお母さん的存在で、みんながちゃんと休息を取っているか、しっかりと食事も摂っているか、いつも目を光らせているんだよ(笑)。



<リリース情報>



ナッシング・バット・シーヴス
『デッド・クラブ・シティ』
2023年6月30日発売
https://NBT.lnk.to/DeadClubCityJP
=収録曲=
1. Welcome to the DCC
2. Overcome
3. Tomorrow Is Closed
4. Keeping You Around
5. City Haunts
6. Do You Love Me Yet?
7. Members Only
8. Green Eyes :: Siena
9. Foreign Language
10. Talking To Myself
11. Pop The Balloon

https://www.sonymusic.co.jp/artist/nothingbutthieves/

Rolling Stone Japan 編集部

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