石垣島在住87歳のジャズシンガー齋藤悌子が語る、戦後から現在に至る歌手人生

Danny Boy / 齋藤悌子

田家:最初にこの曲を聞かれたのはいつ頃のことなんですか。「ダニー・ボーイ」と出会ったのは。

齋藤:歌い始めてから、2、3年ぐらいしてからだと思いますけどもね。クラブで歌ってますとリクエストが多かったんです、この曲は。だからこれはもう絶対歌わなきゃっていうことで必死に覚えた記憶があります。

My Funny Valentine / 齋藤悌子

田家:齋藤さんのことは、女性週刊誌に長い記事が載ってまして、そこにこの「My Funny Valentine」のリクエストカードの写真があったんですよ。齋藤さんが歌ってらっしゃるお店で、兵隊さんがこの曲をリクエストするっていうカード。

齋藤:いろんなのがたくさんありますから。クラブで歌ってリクエストするときには必ずカードに書いてステージに持ってくるんですね。それを見て歌ったりしたもんですから。歌い始めの頃っていうのは何しろ、学校を卒業した頃はジャズスタンダードっていうのを歌ったことないけども、とにかく専属で入るからにはリクエストの曲は何でも歌わなきゃいけないって思ったもんですから、もうありとあらゆる曲を片っ端から覚えましたね。だんだん歌ってるうちにお客様の好きな曲、今アメリカで流行してる曲っていうのがわかってきて、リクエストがあればそれを歌うようにしてきましたね。

田家:去年初めてのデビューアルバム『A Life with Jazz』をお作りになろうと思われたのは、いろんなすすめがおありになったんでしょうけど、ジャズバーの「すけあくろ」のマスターの方がアルバムを作らないかって。

齋藤:お話を持ってきてくださったんです。それで私にしても本当にびっくりしました。初めてですからね。ましてやバックのメンバーがすごい方たちでしょ。びっくりしましたけども、一生懸命やりました。

田家:やっぱりびっくりされました。

齋藤:そりゃそうですよ。松永(誠剛)さんとMarinoちゃんは存じ上げなかったんですけどね、デビッド・マシューズさんはもう有名ですから。ジャズマンにして知らない方はいないくらいの方でしたから、その方の伴奏で歌えるっていうのはびっくりしましたね。でも、本当に練習もしないですけど、私にこの曲とかこの曲ね、イントロいくつ? 間奏はいくつ? じゃあやりましょうって感じで、もうそのまま録音している感じなんですね。でもさすが。ちゃんとカバーしてうまく入れてくださってますね。びっくりしました。

田家:アルバムをお出しにならなかったのは、やっぱり理由があるんですか。

齋藤:今みんなすぐCDに録るじゃないですか、なんでも。あの頃は全くそういうことはなくて。私が持ってる自分のCDは2枚しかないんです。1枚は知らないうちに入ってたの。それはいつどこで録ったかわかんないですけど、宮古の民謡をフルバンドで歌ってるのが、コザのレコード店にあったのが見つかったんですね。

田家:宮古島の民謡?

齋藤:宮古の方言でフルバンドで歌った。歌った記憶はあるけども、録音したということは全く知らなかったんです。そのレコードを何十年経ってからいただいて、そしてもう1枚はRBCって放送局の10周年記念講演が国営館という映画感であったんですね。そのときに歌ったとき録音されたのが、しばらくしてから齋藤さんこんなのがあるよってことで、びっくりして、ぜひくださいっていただいて。それ以外には何もないんです、私の録音したものっていうのは。

田家:もう1枚というのはジャズのスタンダードだったんですか。

齋藤:そうです。そのときは主人も元気でしたから、主人のバンドで歌ってますね。

田家:アルバムを出されて変わったことというのはありました。

齋藤:それあります。もう皆さんびっくりしちゃって。あちこちからお電話くださってね。かなり反響がありましてね。びっくりするような、ありがたいような、本当びっくりしました。この前沖縄のコザのプラザハウスっていうところでやったときとか、東京の有楽町でやったとき、50年ぶりの友達が来てくれて。50年ぶりですよ。それが電話かかってきてね、私達5人で行くから頑張ってねって。50年前の中学生の頃に別れた子の顔なんかわかりませんよね。それはちょっと戸惑いましたけどね。最後に声かけられてびっくりしたんですけど、そういう感じで、本当に昔の懐かしい友人が大勢来てくださったのは本当に感動しました。

田家:東京のコンサート初めてだったわけですもんね。

齋藤:そうです。大きなステージでね。最初は緊張してたんですけども、だんだんお友達のこともいろいろ考えると気分がほぐれてきて、やりたいようにやったって感じです。

Rolling Stone Japan 編集部

Tag:

RECOMMENDEDおすすめの記事


RELATED関連する記事

MOST VIEWED人気の記事

Current ISSUE