Diosが語る、ポップミュージックで「自由」を歌う限界と可能性

Dios:左からササノマリイ、たなか、Ichika Nito

17歳で天才リリシスト/ボーカリストとしてデビューしたたなか(ex. ぼくのりりっくのぼうよみ)、マシン・ガン・ケリーの作品などにも参加する世界的ギタリストIchika Nito、ボカロ〜アニメカルチャーで活躍するビートメイカー/アーティストのササノマリイといった、卓越したスキルと確立されたシグニチャーサウンドを備える3人から成るDiosが、2ndアルバム『&疾走』を完成させた。

完成直後に実施したこのインタビューは2時間を超えた。1stアルバム『CASTLE』も、濃い個性を持つ3人がアートを追求した素晴らしい作品であったが、それから約1年のあいだ、音楽面でも、人間としての内面においても、Diosとしての数字的な成果の面でも、「変わりたい」という想いが3人を掻き立たせた。その数々の変化を深く聞き出すには、2時間でも足りないほどであったのだ。

「ありのままで美しい」や「自由」を訴えるメッセージが陳腐化していく世の中で、Diosが新たに提示したい“ただしいフォーム&疾走”とは一体どのような思想であるのか。「ぼくのりりっくのぼうよみ」としてデビューし、現在は「たなか」という無記名性の名前で活動する彼が、日常生活においても一人称を「ワイ」から「俺」へと変えるようになったのはなぜか。果たしてそれが歌詞の変化にもつながっているのか。『CASTLE』では静寂な森や城を彷彿とさせる世界観を作り上げていたにもかかわらず、なぜ今回はポップなイラストを用いたアーティスト写真やジャケットを起用したのか。そして3人が考える、ポップミュージックが人間に及ぼす影響の可能性と限界とは。それぞれが異なるフィールドでポップス最前線に立つ3人だからこそ、音楽や社会の時代性にまつわる話は深まっていくばかり。そこに様々な角度からツッコませてもらった。



―『&疾走』、自分たちとしてはどんなアルバムが仕上がったと感じていますか。

Ichika Nito(Gt):Dios第2章だね。

たなか(Vo):そうだね。最近僕の中で音楽の定義が変わってきていて。前は自分の思う美しさを自分のために表現しているところが大きかったんですけど、最近はそこへの興味がほとんどなくなって、世界を前に進めることとか、聴いてくれた人の意識を変容させ得ることに重きを置いて作るようになって。なのでこのアルバムは、自分の内側を満たしていくというよりは、聴いてくれる人のために作った一枚になりました。生きる上で欠かせない思想を構築する補助線みたいなものとして機能してくれたらすごく嬉しいなという想いで僕は作りましたね。

Ichika:この3人で作れる音楽をいかに最大化させるかがテーマで。『CASTLE』は、3人とも強い個性を持っているんですけどみんな人がいいから特に衝突もせず、つるっとした作品になっていたというか。曲として完成はしているんですけど、「もっと面白いものができたのになあ」みたいな反省があったんです。それがちゃんと数字にも出ていたし。今作はどうやって3人の個性を削ぎ落とすことなく音楽を作れるかを考えた過程で生まれたアルバムだと思います。

ササノマリイ(Key):僕にとっては、より自分勝手にやらせてもらえたというか。今回、ほとんどの曲を外部の方――川口大輔さん、TAKU INOUEさん、Hironao Nagayamaさん――に作曲やアレンジをお手伝いしていただいて。今まで僕自身が、自分が作ったものを触ってほしくないとか、関わってもらったことによって自分の意図しないものが出てくることが嫌だとか、そういうことに拒否感を持っていた人間だったんです。でも今回はそれを面白いと思えるようになりました。向こうからの提案にまた自分の案を乗せることで、逆に自分らしさをより出せたんじゃないかなと思って。それを経て、最後にできあがった“Struggle”は、3人だけで作るときにもちゃんと無責任にやれて、各々のよさを際立たせて出せるようになったのかなと思います。そういう成長の一枚です。

―前作にも3人のシグニチャーサウンドは強く出ていたけれど、今作は、各々が持っている個性のより多くの種類を出しながら、より高いレベルでの相乗効果を生み出すことに挑んだ作品であると感じました。1曲目「自由」からササノさんのよさとTAKU INOUEさんのよさがバチバチに編み込まれていて、すごいバランス感だなと思ったんですよね。

ササノ:僕、コンピレーションアルバムに曲が入るときとか、一番燃えるんですよね。だって並べられて比べられるわけだから、負けたくないじゃん? 今回もそれに近くて、経験値でいったら僕の方が明らかに少ないわけだけど、TAKUさん、Nagayamaさん、川口さんを超えてやるぜって。そういう意識がこのアルバムではよく出てるんじゃないかなと思いますね。


ササノマリイ、たなか、Ichika Nito

Ichika:3人とも個性が強いんですけど、それぞれの得意なところと得意じゃないところのパラメーターがある程度わかってくるんですよね。具体的にいうと、たとえばたなかだと、歌唱能力と作詞能力はすごくステージが高いけど、メロディを作ることにおいては、その2つと比べるとそこまで突出していないと思うんですよ。僕はソロギターの奏法によって出てきた独特なスタイルがベースにあるけど、スタジオギタリストの方たちがレコーディングで入れるようなベーシックなギターをやろうとするとそこまで魅力的ではない。ササノに関しては、リズムトラックにおける執念はすごいけど、上モノはちょっと苦手な部分があったりするやん? 今までのDiosは苦手な部分も自分たちでやろうとしていたんですけど、得意な部分だけやって、足りないものは外部の方たちに補ってもらうおうと。今まではお互いの音楽性が好きだから「いいな」ってなっていたんですけど、ちゃんと突き詰めると、なんかもったいない部分があるんだよなって。

たなか:今回は「妥協しない」がテーマというか。妥協しないし、引くところはめっちゃ引いて、人にやってもらう。やっぱり出すところを出しまくるために引くのが大事なんですよ。それがちゃんと「バンド」だからできたよね。

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