Diosが語る、ポップミュージックで「自由」を歌う限界と可能性

たなかの人間としての成長

―今回のアルバムでたなかさんが表現している歌詞は、ニヒリズムから抜け出して、さっき話してくれた「ギャル」的な考え方で世界を愛すための道標みたいなものだと思うんです。そこはIchikaさんの影響が大きかった?

たなか:かなり大きいですね。『CASTLE』のときは、生きていく上ではギャルの価値観の方が便利だとわかりつつも、そこに順応できない人のもがきみたいなものが美しいと思っていたんですけど。僕はずっと、ほっといたら世界は全部消えていくし、何かゲットできたとしてもそれは一時的なものでいつか消えていくんだ、みたいな感覚で生きてきたので。そこからどうすれば「ギャル」になれるのかについていっぱい考えて、歌詞を書いたのが『&疾走』というアルバムです。

―これまでは物語調の書き方が多かったと思うけど、今回は主観的なメッセージ性を感じる歌詞の綴り方で。

たなか:そうですね、「俺がこれです」という。ファンタジーの世界に対して興味がなくなって現実に向き合おう、というはあるかもしれないですね。もう8年くらいずっとその書き方をやってきたので本質的には飽きていて、次のやり方を探していて、やっと見つかったという感じですかね。冒頭の話に戻るんですけど、自分のために音楽を作る必要がもうなくなっちゃったので、そうなると音楽で何ができるのかなと思ったときに、思想の刷り込みだなと思って。その人の脳をちょっとずつ乗っ取ることができるのが音楽だから、悪い方向ではなくて、正に向かっていくためのことをやりたいなって。

―たなかさんは、ソングライターとして書く歌詞と、ひとりの人間として生きる自分自身の内面が、すべてつながっているという安直な捉え方はされたくないタイプだと思うんですけど、さっき話してくれたような一人称の変化や自分への向き合い方や意識変化が今回の歌詞の変化につながっていると思いますか?

たなか:まあでもつながってると思いますよ。俺が俺であること、つまり自分自身を引き受ける姿勢みたいなものと分かち難く結びついていて。「俺」を採用してから、なんていうか、「ダサくあってもしょうがない」みたいなところがより骨身に染みてできるようになってきた感がある。




Photo: Yukitaka Amemiya
2023年8月30日 Spotify O-EASTで行われた『&疾走』発売記念プレミアムイベント

Ichika:たなかの歌詞を読んでると、成長日記を見てる気分。俯瞰で見る話とか、一人称の話とか、物事の見方とか、人生のタームにおいて変わってるじゃん?

ササノ:わかるわあ。

―そうなんですよね。ぼくりりの楽曲から遡って振り返るとより成長日記だなと思うんです。“世界は美しいんだ/認めて何が悪い?”とたなかさんが歌っていることがすごい変化だなと思うんですよね。

たなか:まあ、わかります。一般的に見ると、僕がそういうことを認められなくてもがいてる人みたいな見え方になってるのはすごくわかる。

Ichika:でもそれはあんまり納得いかないんだよな。普段はどちらかというと、一瞬一瞬のなんでもない瞬間、景色、風景、挙動にフォーカスして、刹那の幸せみたいなものを常に感じながら生きているなと思う。キラキラしてるものを見つけるのは得意だよね。

ササノ:その時代(ぼくのりりっくのぼうよみの時代)から隣で見てきた自分からすると、それは一回潰れきった人間が見えてくる世界なんじゃないかなと思う。名の通り転生してる感じがする。だから、Diosの歌詞をこのまままっさらな状態で受け取られることももちろん面白いけど、たなかの歴史として捉えてもすごく面白い見方ができるなと思う。僕がそういう見方してるし。

Ichika:これってさ、唯一無二のものを生み出せると思うんだよな。だって、大抵の人は、小学生とか10代のときに一人称のことを通ってるのよ。大人になった今の感性を備えた上でその経験をすることってないから。たなかならではのものが生まれるよね。

―だからこそこのアルバムはただ「ギャル」なマインドを持ってる人たちだけじゃなくて、ルサンチマンに浸ってる人とか、世界をちょっと憎んでる人にもちゃんと寄り添いながら引っ張る音楽になっている気がします。ギャルマインドを歌ってるんだけど、ちゃんと非ギャルたちを引き連れている。

たなか:そうですね、非ギャルが歌ってるので。その人たちは「ワイ」の傾向が多分強いと思うので、「ワイ」と「俺」の中間にいる自分やるのはちょうどいい。……はあ、つらい(笑)。

ササノ:すごいバランスだと思うんですよね。僕自身、だいぶひねくれてる人間なんですけど、ひねくれてる人間が見ても嫌な気がしないんですよ。もっと説教くさいものとかあるじゃないですか。これも説教くさいはずなんですけどね。それでも拒否感なくちゃんと受け止められるのは特殊だよなと思う。

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