Diosが語る、ポップミュージックで「自由」を歌う限界と可能性

3人の内面を表す、キャラクターたちの意味

―Dios「第2章」の象徴として、ジャケットやアーティスト写真に登場しているキャラクターたちのことも気になります。これらのビジュアルはどういった発想のもと作っていったのでしょうか。



たなか:新しく入ったクリエイティブディレクターの方が「バーチャルなキャラクターを作ってみよう」と提案してくれて……最初はすげえ嫌だと思ったんですよ。

Ichika:なんならあのときのササマリ、ちょっとキレてたよね(笑)。

たなか:顔が険しかったよね(笑)。でも嫌だと思う気持ちって、物事が前に進むときの兆候でもあるから、いい予感がしたんですよね。外見ではわからない3人の内面や精神性をぶっこ抜いてデフォルメしたキャラクターで表現するといいんじゃないというところに落ち着いて。自分たちの見た目からは遠ざかっているんだけど、メンタルの本質に近い表現。

―3人のどういった内面、精神面が出ていると思いますか?

たなか:ササノは、ポンコツロボです。

Ichika:うん、まさに。満場一致でしたね。最初に俺らでラフイメージを作ったんですけど……。


Diosの3人を描いた最初のラフイメージ(画・Ichika Nito)

Ichika:そこから浅野さん(浅野直之。『おそ松さん』『サマーウォーズ』などのキャラクターデザインを手がける)が今の形を作ってくださって。

ササノ:もうまさにこれ、みたいな。僕自身ポンコツだし、曲を作ってるときは機械ありきの人間でもあるし。


ササノマリイ

Ichika:ギャルがロボットを掴んで投げて壁壊して進んでいく、みたいな。カートゥーンとかNickelodeon(『スポンジ・ボブ』などを放送するアメリカのテレビチャンネル)でありそうないじられキャラの扱い。Diosでササマリの可愛さがあんまり伝わってないよね。すごく知的でクールなトラックメーカーみたいな印象を受けると思うんですけど。

ササノ:まあ実際そうなんですけど。

Ichika・たなか:…………。

たなか:もうツッコんであげないんだから。

―この沈黙が物語ってる(笑)。

ササノ:最近ちょっと大人になってきて、ちゃんとしようと思って、(バンド内の)最年長としてちゃんと頭を働かせてるわけですよ。まともになってきてるでしょ? だから褒められると思ったんだけどね。

Ichika:今ここで自分がまともであるって弁明し続けてる時点で、もうそうじゃない。褒めてほしい小6の振る舞いなのよ(笑)。……っていうのがこのロボットに全部出ています。

―なるほど(笑)。ギャルはIchikaさんのことですよね。


Ichika Nito

たなか:Ichikaはギャルの擬人化みたいなところがあって。僕の中のギャルって、ファッションの話ではなく、ファッションに至る思想のことで。ギャルは、世界そのものを肯定できていて、この地球という空間は自分が獲得可能な場所だと心底を思えている人。世界に美しくない場所はいっぱいあるし、望み通りにいかないこともいっぱいあるんだけど、原理としては自分が獲得できるものであると。適切な方法で、適切な鍛錬と、適切な時間を積んだら、ちゃんと広がっていくはずだと。そういう陽の確信を持った上で、適切な努力ができる人が僕の中で「ギャル」。Ichikaは、見た目はギャルじゃないけど、ギターでギャルをやってるっていう。

Ichika:そうですね。基本的に練習すればなんでもできるものだと思ってるし。何かを始めるときにネガティブな考えは一切なくて、「これやって失敗したらどうしよう」とか、「できなかったらどうしよう」みたいなこともない。失敗しても「まあいっか」くらいに思うし。自分の手の届かないものはどんどん獲得していこうっていう。

たなか:素晴らしいですよ。

―今の話は今作全体の歌詞に通ずる精神性だと思うので追って詳しく聞かせてほしいのですが、先にたなかさんのキャラクターについても聞かせてもらうと、これはどういうイメージですか?


たなか

Ichika:たなかはクラッシュ・バンディクーがいいっていうのがあって。

たなか:キャラを3体出すときに、ロボット、人、人だと、ちょっとバランスが悪いなと思ったんですよね。それで動物とかの方がいいよねということでみんなで一致して。なんかいいよね。こういう姿勢であろうという、ね。

―どういう姿勢が具現化されていると感じますか?

Ichika:このポージングとか特にそうだなと思うんですけど、ひねた感じがありますよね。パジャマ着てるし。たなかは人に正面から向き合っていくことを避けがち。

ササノ:そうだねえ、うん。

たなか:……あぁ……動悸が……。

Ichika:たなかの一人称がずっと「ワイ」だったんですけど、最近「俺」になったんですよ。2ちゃんねるのモニターから現実を見ているようなところから、ちゃんと一人称視点で見られるようになった。

たなか:そう、そうなんです。俯瞰地点からの脱出ですね。「ワイ」と言ってる時点で「自分サゲ」から始まってるんですよ。過剰に下にいくことで、既存の枠組みから外れて、「そこではないところにいまーす」みたいな。

Ichika:王冠をかぶってるところとか、完全にそうなったわけじゃなくて、「なりたい」という気持ちの表れなんだよ。パジャマの寝起きの感じとか、そこに向かっていく過程みたいな姿勢が出ていてすごくいいなと思う。

たなか:そうだね、まだ完全な主観にはなれてないから。

Ichika:でも人と真剣に向き合わないのはたなかだけじゃなくて、3人ともに共通しているところで。3人とも理由は違うんですけど。僕は人と向き合うことをめんどくさいと思うタイプで、ササマリは人と向き合うことへの恐れがあったりして。でもバンドとしてやってるからその障害を乗り越えるいい機会だと思う。だからここは更生施設みたいなものです(笑)。

―3人ともが変わっていくという意味での「第2章」でもあったんですね。

Ichika:ありますね。前作はそこに無自覚でただ普通にいい音楽を作ろうという気持ちで作ったものだとしたら、今作はよりお互いの内面に向き合ったかな。

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