Diosが語る、ポップミュージックで「自由」を歌う限界と可能性

ポップスの構造で「自由」を歌うことは無理

―今作は最初にたなかさんが言ってくれたように、聴いた人が生きる上での思想を構築するためのヒントやアイデアがアルバム全体に散りばめられていますよね。3人が今の世の中やポップミュージックをどう見ていて、どんなメッセージを発信したいと考えたのか。そのあたりを聞かせてください。1曲目は「自由」というタイトルですが、「自由」をどう捉えるのかは今作の全体のテーマのひとつでもありますよね。



たなか:そうですね。「自由」って、ポップスの3大テーマのひとつみたいな――自由、恋愛、あとなんだ?

―夢、とか?

たなか:そう、夢とか。自由がね、僕、一番嫌いなんですよね。「空を自由に羽ばたいて」みたいな。もっと現実に即した感じでやっていきたいなって。そもそも自由について歌うことは、ポップスの構造上、無理なんじゃないかな。

Ichika:根本で自由になったところで、「じゃあどうするの?」っていう。自由の先を提示してくれなきゃと思うし、提示された時点でそれは縛りになるんよ。

たなか:そう。無責任なんですよね。テクノロジーの発展によって自由を手にできる人たちが増えてきたと思うんですけど――まあもちろん、その逆には貧困問題とかもあるんですけど――自由を手にした人たちがそれを上手に行使できないということがもう目に見えてわかるようになってきて、そうなると「やっぱり自由というのはまだ人類には早いんじゃないか?」と思って。自由になるんじゃなくて、むしろあえていろんな規則や鎖に縛られることによって、初めて自分は成長できる、どこかで進んでいける、という考えが僕の中にはあって。

Ichika:そもそも黒人たちが音楽で「自由になろう」と歌うのはわかる。今のポップスは、そこから「自由」というテーマ性だけが引き継がれているんだけど、今における自由は昔の自由とまた違うんだよ。それで「ん?」という部分が生まれるんじゃないかな。時代において求められるものは違うから、「愛」や「夢」は普遍かもしれないけど、「自由」には違う概念が必要だと思う。結局1人で生きてるわけじゃなくて社会で生きていて、社会に縛りはなくちゃいけないから。なかったらなんでもありになっちゃうし。

ササノ:そういうところの流れで、世捨て的な歌詞とか「今世は踊ろう」くらいのものになってきちゃうのかなと思う。終末思想も、それはそれで俺は大好きなんだけど。でもその歌を歌いながらも「明日もバイトだしな」みたいな感じでしょ。「この世の中、踊ってはいられないっすよね」って、ふとよぎるから。終末論を抱きながら生きていても、終末には行けないし、結局変わらないじゃん、みたいな。


Photo: Yukitaka Amemiya

Ichika:Diosでやるからにはそれを許さないからな。

―終末論はギャルじゃないですもんね。

ササノ:そうそう。だから俺も諦めてるなりに前に進んでる。

―だから“自由になろう”という歌詞じゃなく、“自由を捨てろ/自分を捨てろ”になるんですね。

たなか:そうなんですよ。「自分」なんて大したことないですからね。時として、自分が望む形ではない鎖にあえて縛られることも、まあ非常にいいよねと。自分が定義できる自分って知ってる範疇でしかないので、結局閉じた世界にずっといてしまうだけで。「ありのままの自分でいよう」ってよくいうけど、自分に新しいものを供給していかないとどんどん薄くなっていくので、メッセージとして不十分だと思うんですよ。

Ichika:それも一種の終末論なんだよね。

たなか:そう、「今の自分で完成!」みたいなね。そうじゃなくて、本とか読んだ方がいいし、知らない人としゃべった方がいいし、新しいバイトをしてみた方がいいし。そういう感じですかね。

―ここ数年「ありのままの自分でいよう」みたいなメッセージがよくあって、それのおかげで生きやすくなった人もいるとは思うんだけど、その言葉の意味がどんどん肥大化したことで破綻してきた部分もあると思っていて。だから世の中全体がその次の適切な言葉を求めている気がして。

たなか:いや、そうなんですよ。

Ichika:それが「&疾走」だよね。

たなか:そう。「自由」で鎖を持つことが大事だとか、今の自分たちがぼんやりいいと思っている「自由」という概念の陳腐化について歌ってて、それに対して「じゃあ実際どうすればいいのか?」の具体的な方法を示しているのが“ただしいフォーム&疾走”。たとえば、歩くことにおいて反り腰にはならず、胸を張りつつ、腹筋に力入れて、ただしいフォームで歩いていく。その比喩が、仕事の向き合い方とか、人との関わり方とか、いろんなことに転用されて幅のある曲になってくれたらいいなと思います。ただしいフォームに沿って日々生きていくことを徹底すれば、どう考えても人生は開けていくはずなんですよ。最近どんどん、基礎の積み上げが軽視されているじゃないですか。

Ichika:ハズレ値を出したら勝ちみたいなところあるからね。それはあんまりよくないよね。

たなか:結局それはラッキーでしかないから。再現性を伴った、ただしいフォーム。日本の人には宗教が薄くて正解/不正解を決める根本的な基準がないからみんな困っていて。「Diosが神様になります」みたいな話になるとそれは一瞬でおかしくなるので、そうではなくて。思想の柱がない問題に対して僕らが1個提示する答えのサンプルとして、“ただしいフォーム&疾走”であるということですね。


Photo: Yukitaka Amemiya

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