目立ちたがりのアバズレ? 米インフルエンサー界の草分け的存在が振り返る壮絶な過去

アリソンは投資家から資金を募り、Non Societyという会社を立ち上げた。「今になって思えば最悪な社名だけど、自分たちは普通の社会人じゃない、自分たちは反逆児なんだって言いたかったのよ」と本人。「みんなで共同生活できるアパートを探した。家賃はスポンサードしてもらって、そこでライブストリームしたり、ブログを書いたり、動画を撮影したりするわけよ」。2010年代にブレイクしたコラボハウスのはしりだった。こうしたコンセプトでBravoからリアリティ番組『IT Girls』のパイロット版制作の依頼を受けると、インターネット評論家からは猛反発が起きた。彼女には力不足だ、と彼らは主張し、性差別的な攻撃を浴びせた。ニューヨークポスト紙のゴシップ欄Page Sixは、彼女を「インターネットで媚びを売るアバズレ」と呼んだ。

にもかかわらずアリソンは売り込みを開始し、大口契約を結んだ。2009年にはCiscoと3万ドルの契約を結び、消費者家電の見本市CES向けに2本の動画を製作した。同じ年にはT-Mobileに関するツイートを4本投稿して1万4000ドルを稼いだ。ユニリーバのマーケティング部門を仕切っていたサイモン・クリフ氏は、アリソンのネット活動は「ユニリーバのような500億ドル企業が学ぶべき教訓」だとして、本人を招いて重役300人の前でインフルエンサーマーケティングをレクチャーしてもらった。アリソンはSonyとも巨額の契約を結んで新型Vaioを宣伝し、ペイトン・マニングやジャスティン・ティンバレイクと一緒に広告キャンペーンにも出演した。

キャンペーンは彼女の熱烈な若い女性ファンの間で大好評だったが、Gawkerは性差別色の濃い記事で彼女をバッシングした。「ジュリア・アリソンがSonyのVaio Lifestyleをバッグに入れて持ち歩いているのを知ってるかい? バッグから取り出すのは、Lifestyleと書かれていてもVaioだけとは限らない」と、コンドームの人気ブランドをほのめかしながら小ばかにした記事もあった。

アリソンの活躍について書かれた記事はことごとく、気分が悪くなるほど女性蔑視的な文言や表現が含まれていた。圧倒的に男性が多いITジャーナリストは、アリソンが誰とでも寝る尻軽女だとほのめかした。性差別もはなはなだしい文言で中傷し、メディアやITの専門家としての彼女の信用性にけちをつけた。彼女がIT界の実力者とインタビューしたりパートナーを組んだりすると、枕営業をかけていると非難した。Fast Company誌は「おっぱいだけでは上手くいかないこともあるんだよ、ジュリア・アリソン」という記事を掲載し、WIRED誌をはじめとするITメディアも同様に敵意をむき出しにした。

女性蔑視の例にもれず、怒りの背後にあったのは恐怖だった。2010年、アリソンは情報サイトTheStreetのインタビューでこう語った。「私はインターネットを配信チャンネルと見ている……仲介者をすっとばせるでしょ。雑誌を経営して広告料を懐に入れるような人たちをね」。身の程をわきまえず、慣例や序列に従わない部外者をメディアは何が何でもつぶそうとした――部外者が女性ならなおさらだ。

こうした反発にもかかわらず、アリソンはインターネットで熱烈なファンを増やした。とくに若い女性たちは彼女を崇拝し、陽気な人柄と自信にあふれたな姿に憧れた。有名ブランドもオーディエンスを獲得する彼女の才能に一目置いていた。

そうしたファンが増える一方、アリソンは世界各地の主要ビジネス会議で講演した。ダボスで行われる世界経済フォーラムや、ホワイトハウス記者クラブのディナーにも出席した。ニューヨーク文化の中心地92nd Street Yのイベントではスター扱いされ、サウス・バイ・サウス・ウェストで基調講演も行った。

2010年も終わりに差しかかったころ、アリソンはロサンゼルスに移住した。ブレイク間違いなしと言われたBravoのリアリティ番組に抜擢されたのだ。『Miss Advised』と題した番組は、恋愛に長けた3人の独身女性が私生活でアドバイスを実践するという内容だった。だが、アリソンにとっては期待外れの結果だった。1シーズンで「さんざんな」経験をした後、二度とリアリティ番組流行らないと心に決めた。


『Miss Advised』 アリソンの出演エピソードより(EVANS VESTAL WARD/BRAVO/NBCU PHOTO BANK/NBCUNIVERSAL/GETTY IMAGES)

今になって思えば、アリソンが活動を辞めなかったのは驚きだ。世間では彼女をこき下ろすためだけのwebサイトが立ち上げられた。彼女の家族を付け回す者もいた。著名なジャーナリストや評論家は、全米TV局や大手メディアの紙面で彼女をばかにした。Radar誌からは、インターネット史上もっとも嫌われる人物第3位に挙げられた(ちなみに第4位はYouTubeの動画で子犬を崖から放り投げた人物だった)。投資家と会合すれば「媚びを打っている」と非難され、ビジネスパートナーの男性と肉体関係にあるかのように囁かれた。女性蔑視やゴシップが原因で要注意人物とみなされ、契約も打ち切られた。

「私に向けられた憎しみは、見るからにものすごい量だった」とアリソンは語った。「当時はインターネットのアンチに詳しいセラピストもいなかった。私をけなす人たちから精神的打撃を受けても、ほとんど助けを得られなかった」。

2012年には、彼女もこれ以上インターネットの攻撃に耐えられないという結論に達した。「約10年間ずっとこんなふうで、すっかり参っていた」と本人。「打ちのめされ、すっかり幻滅していた。こんな現実はうんざりだった。何よりインターネットから離れたかった。それで思ったの、『どうやってお金を稼げばいいかわからないけど、こんなのもうやってられない』って。そこから先はもう後ろは振り向かなかった」。

彼女はインターネットから自分の痕跡を消し始めた。何時間もかけて1万4000件以上のツィートをひとつひとつ削除した。Tumblrの投稿を削除し、他のアカウントは鍵アカにし、YouTubeやVimeoの拡散動画のアクセスも制限した。

Akiko Kato

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