性的暴行疑惑のヒットメーカー、米音楽業界での輝かしい実績と「黒い噂」

「催眠術で人を操るスヴェンガリとヒロイン」

貪欲にヒット曲を消費し続けるポップ・ミュージック界では、どんなスキャンダルもすぐに忘れられてしまう。それを示すかのように、事実上の勝利判決よりもはるか前に、ゴットワルドはポップ・ミュージック界の中心的人物として返り咲いていた。性的暴行疑惑をはじめとする複数の疑いにも関わらず、新たな成功をつかんでいたのだ。ケシャの体型を批判したこと(ゴットワルド本人は否定)に加えて、アーティストを束縛するという噂は絶えず、「誰に対してもサイテーな人間だった」と某売れっ子ソングライターが言ったように、ゴットワルドの評判は決して良いものではなかったようだ。それでも「彼は勝ち続けた」と、さまざまなプロデューサーやソングライターと仕事をする某エグゼクティブ(本記事でインタビューしたほかの情報提供者同様、この人物もゴットワルドの権力と影響力を恐れて匿名を希望)は指摘し、「信じられないことにね」と言い足した。

昨年だけでもゴットワルドの活躍は目覚ましいものだった。ソングライター兼プロデューサーのひとりとして参加したニッキー・ミナージュの「Super Freaky Girl」は、ビルボードのシングルチャートの1位にランクインしてスマッシュヒットを記録。ラトーの「Big Energy」は3位に輝き、複数回にわたってドージャ・キャットのプロデューサーを務めた。これらのヒット曲とその他数多の成功により、5月には米国作曲家作詞家出版者協会(ASCAP)より「ポップ・ミュージック・ソングライター・オブ・ザ・イヤー」を受賞。この賞はグラミー賞のように主観が反映されるのではなく、楽曲の総再生数によって受賞者が決まる。要するに、ゴットワルドは2022年でもっとも再生された楽曲を手がけたソングライターだったのだ。





ケシャの訴えによってゴットワルドに対する世間の怒りがピークに達した2016年、彼のメインストリームへの復帰は難しいだろうと誰もが思った。彼と交わした契約のせいで他のプロデューサーと自由に仕事ができないというケシャの主張は世間から支持され、ケシャの経験は「催眠術で人を操るスヴェンガリとヒロイン」に象徴される、薄気味悪い搾取の構図のシンボルとして同情を誘った。アデルはブリット・アワードのスピーチでケシャに言及し、レディー・ガガ、フィオナ・アップル、ジャック・アントノフもネット上で支持を表明した。テイラー・スウィフトに至っては、支援金として25万ドル(約3660万円)を贈った。まさに「#freekesha」の時代だった。

ピンクは、2017年にニューヨーク・タイムズ紙に「ドクター・ルークがケシャに性的暴行を加えたかどうかはさておき、自業自得だと思う。あの人は善人じゃないから、こんなことになったの」と語った。誰よりも声を大にしてケシャを支持するケリー・クラークソンは、ゴットワルドは「尊大で人を見下す」と2017年に法廷で証言している。さらにクラークソンは「私が知る限り、彼のことが好きな人はひとりもいません」と言い足し、自身がかつて所属していたレコード会社、RCAレコードの社員から「女性社員はみんな、あの人と仕事をするのを嫌がっている」と聞かされたことを明かした。2018年に本誌のポッドキャスト番組『Rolling Stone Music Now』に出演した際は、2009年にゴットワルドと再タッグを組む可能性が浮上するや否や、「電話口でマネージャーに嫌だと泣き叫んだ」と告白した(これについてクラークソンの代理人はノーコメント)。

2015年から2018年にかけてバッシングの嵐が吹き荒れるなか、ソングライター兼プロデューサーとしてのゴットワルドのキャリアは終わったかのように思えた。スキャンダル前の2013年だけを見ると、ゴットワルドはブリトニー・スピアーズや長年のコラボレーターであるケイティ・ペリーをはじめ、シャキーラ、ニッキー・ミナージュ、マルーン5などのそうそうたるアーティストと仕事をしてきた。だが、提訴された2014年以降はジェニファー・ロペスやファーギー、ミナージュとの数曲を除いて、女性のトップアーティストを手がけていない(レコーディング当時、ロペスはゴットワルドが関わっていることを知らなかった。ファーギーとの仕事は提訴される前だった)。ゴットワルドはペリーの「I Kissed a Girl」(2008年)から「Teenage Dream」(2010年)に至るまでのヒット曲の共同プロデューサーを務めたが、2013年以降のアルバムのクレジットにその名前はない(これについてペリーの代理人はノーコメント)。





Translated by Shoko Natori

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