性的暴行疑惑のヒットメーカー、米音楽業界での輝かしい実績と「黒い噂」

「彼はすべての人に心理戦を仕掛けます」

ケシャほど注目されなかったが、ベッキー・G(本名:レベッカ・ゴメス)も2018年にゴットワルドを提訴している。具体的には、ゴットワルドの飲料会社、CORE Nutritionのプロモーションを強要され続けたと言って同社を訴えたのだ。これについてベッキー・Gは、「アーティストとしてではなく、歩いて歌う広告塔のように扱われた」と主張。訴状には「ドクター・ルークは、ゴメス氏のアーティストとしての今後のキャリアはCORE Nutritionのプロモーション活動を続けるかどうかにかかっている、と直接的かつ暗黙的に言いました」と綴られていた。最終的にCORE Nutritionはすべてを否定し、2019年にベッキー・Gは訴えを取り下げた(これについてベッキー・Gの代理人はノーコメント)。

「ゴットワルドには、アーティストを発掘してブレイクさせる天賦の才能があります。また、才能豊かなソングライターやプロデューサーを集めることもできます」と某ソングライターは言う。「ですが、彼はすべての人に心理戦を仕掛けます——たとえ相手が男性でも。彼と長年仕事をしてきたプロデューサーやソングライターが口を揃えて言うには、お気に入りを作って他の人たちの嫉妬心をあおるそうです。結果、誰もがドクター・ルーク大先生の気を引こうと躍起になる(中略)私は、ゴットワルドのことをよく知っている人たちと働いたことがありますが、誰もが遅かれ早かれ、モラハラまたは精神的な虐待のせいで自信をなくすそうです。ある時、ソングライターのひとりが震えながらゴットワルドに何かを尋ねているのを見たことがあります。彼は天才ですが、人を操るのが恐ろしく上手い。仕事相手としては最悪です」

2011年に本誌がゴットワルドに初めてインタビューした際、彼は自分のことを思いやりのあるメンターにたとえ、「アーティストに多くのことを教えているような気がする」と語った(未公開部分より)。また、「駆け出しの頃は考えてもいなかったし、気づきもしなかったけれど、誰かの人生を大きく変えられることのありがたさを心から感じられるようになったのは素晴らしいことだと思う。それだけでなく、他の人からいろんなことを学べている。そのおかげで、もう少し長くがんばれる気がするんだ」と言った。


近年ドクター・ルークと仕事をした(写真左から)ドージャ・キャット、キム・ペトラス、スウィーティー。ドージャ・キャットは「もう二度と一緒に働かない」と宣言するいっぽう、スウィーティーは「疑惑のことは知らなかった」と主張した。TAYLOR HILL/FILMMAGIC; KEVIN WINTER/GETTY IMAGES; AMY SUSSMAN/GETTY IMAGES

ルーカス・ゴットワルドは、ニューヨーク州マンハッタンで幼少期を過ごした。音楽に関しては幼い頃から天才性を発揮したが勉強には無関心で、ティーンエイジャー時代はドラッグの売人をしていた。2011年のインタビューの未公開部分でゴットワルドは「いろんなトラブルに巻き込まれた」とティーンエイジャー時代を振り返る。「ビジネスとしては上々だった。私は15歳で、ポケットに現金1万5000ドル(約220万円)を入れて街を歩き回っていた。馬鹿だよな、地下鉄の改札口を飛び越えて、バックパックに数ポンドのドラッグと大金を入れていたなんて。でも、15歳のガキなんてそんなものだ。自分は無敵だと思っていた(中略)25ポンド(約11キロ)のドラッグを毎週運んでいたんだ」

ドラッグから足を洗い、本格的に音楽家としての道を進むようにと諭したのは、ゴットワルドのギターの教師だった。だが、自身にドラッグを売っていた売人がブレイクのきっかけを作ってくれた。その人のつてで米人気番組『サタデー・ナイト・ライブ』のバンドのギタリストになったのだ。この仕事を10年ほど続けるかたわら、ヒップホップレーベルのRawkusレコーズで働く友人に頼まれてラップのリミックスを手がけるようになった。また、副業としてクラブのDJをはじめ、それを機に伝説的なソングライターのマックス・マーティンと彼の同僚であるラミ・ジャフィーと知り合った。

本誌の2011年のインタビューでゴットワルドは「私たちの最初または2番目の作品が『Since U Been Gone』だった。当時、みんなでザ・ハイヴスとザ・ストロークスを聴いていたところ、マックスが『コイツらは、どうしてヒットするサビが書けないんだろう?』と言ったので、それをやってみたんだ」。「Since U Been Gone」のギターリフはゴットワルドが手がけたものだ(ちなみに、マイリー・サイラスの「Party in the U.S.A.」のオープニングのリフもゴットワルド作と思われる)。

Translated by Shoko Natori

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