性的暴行疑惑のヒットメーカー、米音楽業界での輝かしい実績と「黒い噂」

自ら築き上げた巨大ビジネスで成功

ゴットワルドを心よく思っていないのは、ピンクやクラークソンだけではない。「彼が負けるところを見たいかと訊かれると、ぜひ見てみたい」と、先ほどの売れっ子ソングライターは言った(本誌はドクター・ルークの代理人に何度かコメントを求めたが、返信は得られなかった。ドージャ・キャットの代理人もノーコメント)。

ゴットワルドは、ソングライター兼プロデューサーとしては異例の知名度——『アメリカン・アイドル』の審査員になりかけたほど——を誇っていたが、裁判沙汰によって表舞台を降りることになった。だが、第一線から退いたあとも自ら築き上げた巨大ビジネスは回り続けた。ゴットワルドが立ち上げた音楽出版社、Prescription Songsは「トップライナー」と呼ばれるメロディメイカー、プロデューサー、ビートメイカー、アーティスト、「ヴァイブスの担い手」なる多彩なソングライターたちと契約を交わし続けたのだ。また、ソニーがディストリビューションを担うレコード会社、Kemosabeの所有者であることに変わりはなく、Tyson TraxやMade in China名義でプロデューサー業を続けた。


6月27日にドクター・ルークとケシャの間で示談が成立。ふたりはSNSに共同声明を投稿した。MARIO ANZUONI/REUTERS/REDUX

裁判中もゴットワルドの音楽出版社は伸び続け、いまでは業界屈指のポップソング工場へと成長した。ビルボードのチャート入りを果たした楽曲をもとに音楽出版社をランキングする「2022 Year End Hot 100 Publishing Corporations」の7位にランクインするほどの盛況ぶりだ。デュア・リパやリゾ、ザ・ウィークエンド、セレーナ・ゴメス、イギー・アゼリア、トロイ・シヴァンをはじめ、数多の人気アーティストの楽曲には、ゴットワルドがクレジットされている。現代のポップソングづくりにおいては、複数のソングライターやプロデューサーが一度も顔を合わさずにひとつの楽曲に携わるのはよくあることで、その中の誰かがPrescription Songsに所属している可能性は高い。「この世界では、Prescription Songsと契約していない人と仕事をするのは不可能です」とロサンゼルスが拠点の某ソングライターは言う。「石を投げれば当たると言えるくらい、Prescription Songsのソングライターやプロデューサーは至るところにいますから」。ゴットワルドとも仕事をしたことのあるこの人物は、「合体ロボのようにソングライターやプロデューサーを集めてチームを作る」というビジネスモデルの確立者のひとりがゴットワルドであると指摘し、「それは暴力的なまでに商業的なレンズを通したクリエイティブプロセスでもある」と語った。

プライベートでは、ゴットワルドは世間からの逆風に対して無関心な様子だった。これについて某ソングライターは「自信に満ちあふれた印象を受けた」と語る。「心配していないというか、そんなことには興味がないといった感じですね。弁護士もたくさんいますし。自分は無敵だと思っているのではないでしょうか。実際、今回のことで彼の名声には大きな傷がつきましたが、『それでも自分が音楽業界を回しているんだ』と思っている気がします」

ゴットワルドの自信満々な態度を裏打ちしているのが、その莫大な財産だ。ソングライター兼プロデューサーの道を歩みはじめて10年が経った2011年初頭には、「一生分稼いだ」と語っていたほどだ。ゴットワルドの弁護士によると、ロイヤリティによって稼いだ金額は7780万ドル(約114億円)だ。2015年にはハワイに豪邸を購入し、そこにアーティストやソングライターを招いている。2018年には、共同創業者である飲料会社、CORE Nutritionを大手飲料会社のキューリグ・ドクター・ペッパーに5億2500ドル(約770億円)で売却。「『ハワイには豪邸があるし、プライベートジェットで移動できる身だ』とでも思っているのでしょう」と某ソングライターは言った。

スキャンダルによって名だたる女性アーティストから避けられる存在となったゴットワルドは、新しいアーティストとの仕事を増やしていった。Prescription SongsとKemosabeというふたつのレコード会社と各々のスカウトチームは、新人アーティストを引き込むための強力なツールとなった。「そもそもソングライターやプロデューサーは裏方の仕事ですから、人知れず復帰することは大いに可能だと思います」と、さまざまなプロデューサーやソングライターと仕事をする某エグゼクティブは指摘した。

Translated by Shoko Natori

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