クミコが語るシャンソン喫茶「銀巴里」、日本のポップミュージックへの影響



田家:作詞作曲が美輪明宏さん、編曲が大貫祐一郎さん。

クミコ:この歌は昔からある歌としてよく知ってはおりましたけども、いろいろな方がカバーされているのも知っていて。でも自分とは関係ないなとすごく思っていたんですね。というのも、わりと母と子物語な要素が多いじゃないですか。母子ってちょっと私には……リアリティがないなという感じがしていたのですが。父が1年半ほど前に95歳になったんですけども、施設にお世話になることになりまして。その前からいろいろ介護的なことはずっとしていたんですけども、自分の手を離れて違うところに行ってしまった後、いろいろ親密な気持ちになって。彼がこの歌の主人公と同じエンジニアなんですね。地方から東京に出てきて、私を育て一家を一生懸命育ててくれて、その後そういうふうに年老いて弱っていく姿を目の当たりにして。この歌って私の家のドキュメンタリーみたいというか、私の家のことって感じがして急にリアリティを持ってきた。このところ再開発って言葉がたくさん出るように、半世紀ほど前には水たまりだったりボロボロだった歩道とかが跡形もなく立派な姿に変わっていきますよね。それが本当にそうなっているけど、人が働くというのが、体を使って汗水を垂らして働いていた時代があって、その人たちがいてくれたからこそ今があるんだなんてことを痛切に自分の父親とオーバーテイクしながら考えると、この歌は歌っておかなければいけない歌なような気がすごくしまして。歌い手というのは社会と関わっている視点を持ちながら歌だけの世界じゃなくて、社会の中で歌を歌うということはどういうことなのかをずっと考えながらやってきたつもりでしたので。

田家:そういうクミコさんにとってのシャンソンというのが今週と来週のテーマであります。今週はクミコさんが歌うことの第一歩を踏み出した、伝説のシャンソン喫茶銀巴里についてお訊きします。



田家:今週は銀巴里にゆかりの方ということで、何曲か選曲をお願いしたのですがお聴きいただいているのは金子由香利さんの「再会」。1969年の歌で金子さん屈指の名曲でした。

クミコ:今でも金子さんと言うと「再会」を思い出す方が多いと思います。ほとんど喋ってるだろみたいな、このあたりが非常に上手くて本当にこんなに上手くできる方って金子さんしかいないんでしょうけども男の人と女の人の再会の場面を鮮やかに。

田家:やっぱり金子由香利を聴きに銀巴里に行くという存在だった。

クミコ:そうですね。金子さんが大ブレイクをしたのが、ちょうど私が銀巴里のオーディションを受ける2年前ぐらいなのですが、そのおかげで入れた。その前にシャンソン界のレジェンドとして越路吹雪さんが亡くなってしまって、その後誰か埋める人がいるのかなと思ったところに金子さんが彗星のように出てきた感じが私としてはしますね。全く歌の種類、方向性は違うんですけども、山口百恵さんが引退をされるというときに金子由香利さんの歌を聴いて泣いているとどこかでお話をされたらしくて。それでその人は一体何なんだという形で、ご自分のテレビ番組で取り上げられたり。その瞬間に金子由香利さん一色になったという感じですね、シャンソンは。関係ない方々もみんな金子さんにお聞きに来られて、山口百恵さん効果も大きかったと思うんですけど、チケットが取れないような歌い手さんになって。でも銀巴里では月に2回必ず1人で歌われていまして、そのときは押すな押すなの感じでお客様が来られて、その相乗効果で銀巴里自体もいい経営状況になったので、ちょっと毛色の変わったやつをとってみてもいいなということで私がたまたまとってもらえたという。

田家:たまたまとってもらえた(笑)。

クミコ:ええ、たまたまなんです。金子さんなしには今の私はいないと思っています。

田家:そういう背景があって、今回の「時は過ぎてゆく」に繋がったわけですね。

クミコ:「時は過ぎてゆく」は金子さんの持ち歌として有名ですけれども、なかなか歌う機会がなくて。自分の年齢がだんだん歌に近づいてきたというか、もう歌えそうな気がするなというときがだんだん見えてきたなという気が今はしていますね。

田家:谷村新司さんがソロ・アルバムを作ったときに金子由香利いいんだよと言っていて初めて聞きました。残間里江子も谷村さんから教えられた。

クミコ:メディア・プロデューサーの残間里江子さんですけれど、谷村さんがすごく一生懸命みなさんに広げてくださったんですよね。すごいことですよね。

田家:今回のシングルと10月、11月のライブのプロデュースに残間さんのお名前がありましたね。そういう流れがあって、今回の両A面シングルに繋がったわけであらためて「時が過ぎてゆく」を聴いていただきます。

Rolling Stone Japan 編集部

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