クミコが語るシャンソン喫茶「銀巴里」、日本のポップミュージックへの影響



田家:銀巴里は1951年11月18日に開店して、1990年12月29日に閉店。最後を飾ったのが美輪明宏さんだった。深江ゆかさんが『銀巴里~歌いつづけて~』というご本をお書きになっていて、その中にオーディションを受けた人、何日にどんな人がオーディションを受けたかということを書かれている。クミコさんは1981年4月14日。オーディションでどんな歌を歌われたか覚えてらっしゃいます?

クミコ:その頃ヤマハのポップコンにその前に出ておりましたので、オリジナル曲で一次を受けて、それが結構評判よかったらしいんですね。二次に歌うのもシャンソンじゃなきゃダメで歌えるのが1曲だけで、それが「サン・トワ・マミー」だったんです(笑)。

田家:たった1曲しかなかった(笑)。

クミコ:全くなかったんです(笑)。いかに私がなんちゃってシャンソン歌手かというのは、ここから分かっちゃっているんですね。最後まで結局なんちゃってシャンソン歌手だったのですが、歳も歳なのであまり言わないようにしているんですけども。

田家:それではそのたった1曲しかご存知なかったというオーディションで歌った歌をお聴きいただきます。クミコさんで「サン・トワ・マミー」。

サン・トワ・マミー / クミコ

田家:これは2004年に発売になった『イカルスの星 -越路吹雪を歌う』の中からお聴きいただいております。一次で歌った歌はどういう歌だったんですか?

クミコ:元夫だった早稲田大学の友だちが曲を書いて、なかなかいい感じの青春的な歌を歌った覚えがありますね。

田家:決してシャンソンっぽくはなかった?

クミコ:三拍子が多かったので、わりとちょっといい感じのブルースっぽいものも多かったような気がしますね。

田家:「サン・トワ・マミー」はどこで覚えられていたんですか?

クミコ:舞台俳優になろうと思って大学に入ったんですけど、歌を全員で歌う場面があるお芝居が別役実さんという不条理劇の中にあって。

田家:「スパイ物語」の作者。

クミコ:それで歌ったら、歌の方が全然楽しかったんですね。芝居よりも何よりも。そのときに歌で生きていきたいなと思って情報誌とかを見てたらシャンソンカンツォーネ教室というのがあるというので、そこに1週間に1回、6カ月間通ったんですけど、シャンソンが全然おもしろくなかったので3カ月間分ぐらいしか行かなかったんですよ。ただ、「サン・トワ・マミー」だけは好きだったので、それだけはとりあえず歌えるなという感じでおりまして、そこで覚えたという感じですね。

田家:越路吹雪さんが入り口、先生だったというふうに言っていいかもしれないですね。

クミコ:余談なんですけど、越路吹雪さんを銀巴里で歌っている歌い手さんっていなかったんですね。特別な場所の銀巴里に越路吹雪の歌ばかり歌う新人が入ってきたんだってよみたいなことをどうやら言われてたらしいです。

田家:銀座と宝塚ですからね。ちょっと張り合ってたものもあったでしょうね。

クミコ:こちらは伝統的なシャンソン、向こうはショービジネスというか、宝塚みたいなこととちょっとあったのかもしれないですね。

田家:そこで越路吹雪を歌った。

クミコ:それしかなかったものですから。私にとっては越路吹雪がイコールシャンソンだと思っていたのですが、銀巴里では全然イコールじゃなかったということも入って初めて知りました。奥が深い世界でした(笑)。

田家:去年クミコさんが銀巴里でデビューしてからの40周年シングルとして発売された曲がありまして、この曲はそういう意味では奥の深い曲だなと思いますがその曲をお聴きいただこうと思います。クミコさんで「愛しかないとき」。



田家:これは2003年にも一度シングルになっている。

クミコ:そうですね。初めてシャンソンに自分の言葉をつけたいなと思ったもので、27~28歳ぐらいのときに詞を作った。

田家:訳詞はクミコさんですもんね。

クミコ:大したものじゃないんですけど、自分にできる想いをできる限り伝えたいとした詞ですね。

田家:この曲だからというのがあったんですか?

クミコ:世界って穏やかな時期ってないじゃないですか、いつでも。この歌を歌っていたポーランドのアンナ・プリュクナルという人が来日をして公演したときに、彼女が全身全霊でこの歌を歌うのを聴いて、あー私は落ち着いて歌っている場合じゃないと思って、私も歌わなければみたいになっちゃって急に思わず歌い始めたということですね。

田家:深江ゆかさんがお書きになった『銀巴里』にはいろいろな訳詞が紹介されていまして、「愛しかないとき」も載っていて、飢えと戦争、それから死んでいく兵士と生きることという。愛しかないときとはどんなときか歌われていますもんね。

クミコ:そうですね。愛しかないときはどんなときかと言うと、逆に言うと愛ってそんなに力があるんだろうかと。飛んでくる砲弾の中で愛は一体どんな意味があったんだろうかとか、何ができるんだろうみたいな虚しさというのは今もそうですけど、常にありますよね。そういう問題提起みたいな歌かなと思いますね。

Rolling Stone Japan 編集部

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