加藤登紀子が語る訳詞、世界中を回って歌を歌うこと

加藤登紀子

音楽評論家・田家秀樹が毎月一つのテーマを設定し毎週放送してきた「J-POP LEGEND FORUM」が10年目を迎えた2023年4月、「J-POP LEGEND CAFE」として生まれ変わりリスタート。1カ月1特集という従来のスタイルに捕らわれず自由な特集形式で表舞台だけでなく舞台裏や市井の存在までさまざまな日本の音楽界の伝説的な存在に迫る。

2023年10月の特集は、「クミコと加藤登紀子」。テーマは「シャンソン」。シャンソンというのはどういう音楽なのか。日本のポピュラー・ミュージックにどんな影響を与えてきたのか。3週目4週目はゲストに加藤登紀子を迎え、辿っていく。

田家秀樹:こんばんは。FM COCOLO「J-POP LEGEND CAFE」マスター・田家秀樹です。今流れているのは加藤登紀子さんの「百万本のバラ」。2021年に発売になった3枚組ベスト・アルバム『花物語』からお聴きいただいています。今週の前テーマはこの曲です。

百万本のバラ / 加藤登紀子

田家:訳詞をこの番組で正面から取り上げるのは初めてなんですよ。

加藤:訳詞って、なんでこの人はこういうことが描けたんだろうとか、なんでこんな詞、曲が生まれたんだってことに圧倒されることからはじまり、この世界をなんとか自分の言葉に置き換えて伝えたいと思うことから入るので、大きな岩石を前に取り組むような手応えがあるんですよ。これはすごい歌だなと刺激を受けながら、それに応えたいというか。

田家:そういうことがあって3年前に日本訳詞家協会の会長さんに就任された。この「百万本のバラ」についてはどういう想いがあったのか、曲の後にお聞きしたいと思います。

百万本のバラ [Live] / 加藤登紀子

田家:加藤登紀子さんが訳詞をテーマにして選ばれた1曲目「百万本のバラ」。2015年にライブ録音されたバージョンで、去年発売のウクライナ支援チャリティ・アルバム『果てなき大地の上で』に入っております。ラトビア・リエパーヤ交響楽団と一緒に。すごいですね。

加藤:ラトビアの一番の産業が音楽なんですよ。外貨を稼いでくるのはラトビアにとっては音楽なわけ。すごいでしょ? 全ヨーロッパでも外貨を稼ぐオーケストラで。登紀子さん、このオーケストラと一緒にやりませんか? って声がかかった。50周年というタイムリーな機会があればぜひということで、何箇所かコンサートを一緒にやりました。作曲家のライモンズ・パウルスが日本に来たときに、これは実は子守唄でラトビア語で歌ったときは全然違う意味の歌だったんですよということを私におっしゃったんですよ。ラトビアのオーケストラを日本に呼んで歌うんだったらそのことをちゃんと踏まえないと、ラトビアの人に対して失礼になっちゃうかもしれないと思って、あらためてマーラが与えた人生という悲しい子守唄をラトビアで歌うことをして、語りで説明して「百万本のバラ」に行くというバージョンをやりました。ラトビアは支配された歴史が長かったので、この間にどれほどの涙とどれほどの血が流されたのかを神様に訴えている歌なんですよね。この詞を踏まえて、ヴォズネセンスキーという人がニコ・ピロスマニという画家の恋物語にした。絶対に叶うことがない恋を抱いてしまった画家は、膨大なバラを送った。実話なんですよ。叶わない恋だけど彼は決して諦めなかった。そのストーリーが私は大好きで、ウクライナ支援CDの中でレコーディングしたライブ版を聴いていただいたんです。曲を書いたライモンズ・パウルスという人はラトビアがソ連から独立したとき、先頭に立っていた。それをニュース映像で見てびっくりして。広場いっぱいの人々がソ連から入ってくる戦車に立ち向かうんですよ、素手で。武器は持たずに。私にとって広場いっぱいのバラというのは、こういう意味だったのかなと思った。広場いっぱいの人々が声を上げている、平和を求めている、自由を求めている。だから、私の心の中ではずっと「百万本のバラ」を歌うというのは、そういう歌として歌ってきたんですよ。

Rolling Stone Japan 編集部

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