加藤登紀子が語る訳詞、世界中を回って歌を歌うこと

3001年へのプレリュード / 加藤登紀子

田家:加藤さんの音楽観、歌に託した感じの詞ですね。

加藤:うん、そうですね。力が湧きますね、非常にね。

田家:こういう曲はマレーシアとかジョージアでもおやりになるんでしょう?

加藤:なかなか深い世界なので。マレーシアではもう少し日本のポップスをたくさん歌いました。日本の歌謡曲を結構聴いて育ったりしているんです。「難破船」とか歌いました。今度ジョージアの歌も歌うんですよ。一緒に演奏するミュージシャンのチェリストがいて、あなたピアソラはどう?って言ったら大好きだって言うんだけど、かと言ってジョージアの一般市民の人がピアソラをすごく好きかどうかは分からない。難しいけど、すごい不思議な国ですね。世界中の故郷がここに混じっているような。ものすごいたくさんの文化が混じった社会なので、何をやってもOKだろうし、何が一番ピタッと来るのかは行ってみないと分からない部分があるんです。

田家:やってないこととか歌えてないこととか、自分がやらなければいけないことみたいなのというのは。

加藤:やらなきゃいけないというのはちょっとおこがましんですけど、こうやっていろいろな国に行くときに切り札が1つほしいんですよね。あなたの国にとって万能な曲というのが1つあると全然違ってくるので。マレーシアでこの間グターランジーワという曲を日本語とマレーシア語で歌いました。

田家:それはどんな曲なんですか?

加藤:「素晴らしいこのメロディ」という歌にして歌ったんですよね。そしたら素晴らしいという日本語はほとんどの人が分かるから、頭の出だしが素晴らしいって歌詞だったのがみんなを喜ばせたって言われました(笑)。ジョージアはトビリシのコンサートではトビリシを礼賛する歌っていうのがあるんですよね。それを歌います。

田家:そういう活動をしている人は空前絶後になるのかもしれませんが。11月12日は大阪新歌舞伎座でほろ酔いコンサートがあります。

加藤:新歌舞伎座では初めてですし、京都はその後甲部歌舞練場あります。

田家:12月9日ですね。

加藤:ほろ酔いコンサートらしいほろ酔いコンサートができると思って、私自身が楽しみにしています。ぜひいらしてください。



今流れているのはこの番組の後テーマ、竹内まりやさんの「静かな伝説」です。

今週も話のスケールの大きさに圧倒され、感動しております。加藤さんは9月にマレーシアで歌って、10月ジョージアに行って歌われているんですね。世界中を回って歌を歌っているということで言うと、加藤さん以上の人はいないでしょう。しかも彼女が訳詞をつけている歌にはフランスはあるわ、アメリカはあるわ、イギリスはあるわ、アルゼンチンはあるわ。話の中にもいろいろな国の話が登場するんですね。時代も100年、150年は当たり前っていうくらいに俯瞰して、その都度その都度のドラマが彼女の口から語られる。何気ないラブソングだったとしても、戦争があったり革命があったりいろいろな歴史があって生まれた。アーティスト自身も波乱万丈の人生を送っている。国から追われたり、国外に逃げたり、そういう中で生まれた歌ばかりなんですね。加藤さんが日本語の歌でそういうストーリーを蘇らせている。加藤さんが日本語で歌わなかったら、そういう歌は僕らも耳にする機会はないでしょう。

加藤さんの訳詞はその言語を日本語に無理して訳しましたっていうぎこちなさがなくて、彼女の言葉、彼女の歌詞になっているんですね。それが訳詞なんだということを教えてくれているなと今週あらためて思った。来週は最終週、お2人に一緒に話を伺おうという番外編的な対談をお送りします。



<INFORMATION>

田家秀樹
1946年、千葉県船橋市生まれ。中央大法学部政治学科卒。1969年、タウン誌のはしりとなった「新宿プレイマップ」創刊編集者を皮切りに、「セイ!ヤング」などの放送作家、若者雑誌編集長を経て音楽評論家、ノンフィクション作家、放送作家、音楽番組パーソリナリテイとして活躍中。
https://takehideki.jimdo.com
https://takehideki.exblog.jp

Rolling Stone Japan 編集部

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