マネスキンが日本で語るバンドの現在地 「駆け抜けた」一年と新たな始まり

『RUSH!』の一年に学んだこと

ー次に、先頃登場した『RUSH!』のデラックス・エディション『RUSH!(ARE U COMING?)』について伺います。ジャケットのビジュアルはオリジナル盤と違って、あなたたちが女の子の上を飛び越えています。これが意味するところは?

ヴィクトリア:オリジナル盤では、私たちの上を女の子がジャンプしていて、彼女は音楽業界だとかミュージシャンとしてのライフスタイルだとか、それまで数年間の私たちを取り巻いていた環境を象徴していた。私たちは圧倒されていて、抗う術もなく巻き込まれるしかなかったというか。でもここにきて立場は逆転して、この1年間の私たちはミュージシャンという仕事について、そして業界の仕組みについて、オーディエンスとのコミュニケーションについて本当に多くを学んだから、主導権を奪還したように感じていて、それがジャケットに表れているわけ。



ーでは、新たに加わった5つの曲はどういう性質の曲なんでしょう? 近況を知らせる手紙みたいなもの? 次のアルバムへの布石?

ダミアーノ:これらの曲は、文末に打つピリオドみたいなものだと思う(笑)。「ここで終わり!」ってね。僕らが今まで伝えようとしていたことを理解してもらうのに必要な、最後のディテールを聴き手に教えてあげて、隙間を埋めているような。そして自分たち自身にも、今の時点で伝えておきたいことを全部伝えておこうと言い聞かせるようにして作った曲でもある。『RUSH!』にまつわるひとつの時代を、ここで終結させているんだよ。

ーなるほどね。と同時にこれらの曲には、あなたたち生来のメランコリーがより強く表れていますよね。

ダミアーノ:その理由をうまく言葉にできたらと思うんだけど……僕らは今もまだまだ成長過程にあって、中でもこの1年半くらいの間すごく速いペースで成長し、今ようやく自分たち自身にも、オーディエンスに対しても、100%正直になれる準備が整った気がしているんだ。つまり、僕らの脆い部分もさらけ出すことができるようになった。ほら、僕らみたいな見た目で、こういうアティチュードで、こういう音楽をプレイしていると、何にも動じない、痛みを感じない人間だと思われかねないよね。でも僕らはいたってノーマルな生活を送っていて、ノーマルな感情を持っていて、ほかの人たちと同じようにアップもダウンも経験する。だからこういうメランコリックな面も曲で表現するのが当然なんじゃないかなって、思ったんだよね。


Photo by Haruki Horikawa


Photo by Haruki Horikawa

ー一足早くリリースされた「HONEY (ARE U COMING?)」も、アップビートでありながらメランコリーが付きまとう曲です。

ヴィクトリア:あの曲はツアーがひと段落した時点で書いたから、ライブのエネルギーをキープしたかった反面、ダミアーノの話に通じるんだけど、エモ―ショナルなコネクションを持たせたかった。すごく高揚感があってダンサブルなサウンドだから、メランコリックなこと、ディープなことに関係している曲だとはすぐには気付かないかもしれない。でも歌詞を読んでもらえば、より深い意味があると分かるはず。

ーアコースティック・バラードの「TRASTEVERE」は、ローマの一地区の名前をタイトルに掲げていますね。‟お前に才能を与えよう/代わりにお前の命を頂く”という箇所は、ロバート・ジョンソンのクロスロード伝説を想起させます。

ダミアーノ:これもさっきの話と関係していて、僕はネガティブな感情も曲に描きたいと思っていた。「​​TRASTEVERE」がまさにそういう曲だよ。今の生活はものすごく慌ただしくて、いつ何が起きるか分からないところもあるから、一時は結構しんどくて。自分を切り売りし過ぎているんじゃないかと葛藤を抱いたし、自分の全てを差し出してしまって、手元には何も残らないような状態にあった。成功を手にするために、まさに悪魔と取引をした気分だったよ(笑)。究極的に、幸福をもたらしてはくれなかったしね。



Translated by Yuriko Banno, Post Production by Kenneth Pizzo @pizzok

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