マネスキンが日本で語るバンドの現在地 「駆け抜けた」一年と新たな始まり

音楽シーンの大先輩から教わったこと

ー他方で2023年のマネスキンは、コラボレーションでも話題を提供していて、ドリー・パートンのロック・アルバム『Rockstar』のために名曲「Jolene」を一緒にレコーディングしました。ドリーはイメージ通りの人でしたか?

ヴィクトリア:本当にイメージ通りだった(笑)。元を正せば、私たちがナッシュヴィルに行った時にドリーが会いたがっていると言われて、せっかくだから彼女の曲をカバーして聞かせたいねって思い付いたのが発端だった。そうしたら「一緒に歌ってあげてもいい」ってドリーが言い出して、音源を彼女がすごく気に入ってくれて、アルバムに収録することになったわけ。つまり、すごく自然に発展したコラボレーションだから余計にうれしいし、ドリーみたいなアイコンと共演できたなんて、クレイジーでしかない。セッションは午前10時スタートだったんだけど、ボディコンなスーツにハイヒールにフルメイクでばっちりキメて現れて、一緒に歌ってくれた(笑)。半世紀以上活動してきてなお歌うことをやめられない、彼女の音楽への情熱にすごくインスパイアされたな。だってもう引退してビーチでゴロゴロしていても構わない年齢なのに、朝10時からスタジオにいるんだから。最高のエネルギーの持ち主でもあったし、本当に優しくて謙虚で少しも気取ったところがなくて、地に足が着いた人だった。



ーヴィクトリアは、デュラン・デュランの新作『Danse Macabre』にも参加して、トーキング・ヘッズの「Psycho Killer」のカバーでベースを弾いていましたね。ジョン・テイラーはあなたを、“恐らく現在最も重要なエレクトリック・ベーシスト”と評しました。どういう意図で彼はそう評したのか、あなたはどう解釈していますか?

ヴィクトリア:世の中には私より腕の立つ経験豊富なベーシストがいくらでもいるから、技術的にベストだとか、そういうことじゃない。たぶんバンドとしての私たちが、ロックというか、ナマでプレイするバンドの魅力をメインストリームに復活させて、若い世代が接する機会を提供しているという点を評価してくれたんだと思う。実際大勢の若い女の子が私をお手本にしてくれている。今のメインストリームには若い女性のベース・プレイヤーが大勢いるわけじゃないし、ポップ・シンガーにはなりたくない子たちに別の道を提示するという自分の役割はすごく重要だと思う。だから、ポップ・ミュージックの型にはまる必要はない、「これがモダンだ」という世間の意見に従う必要はない、自分らしさを貫けばいいんだって訴える私たちのスタンスだったり、ライブへのこだわりみたいなところをジョンは評価してくれたんじゃないかな。照れちゃうけど(笑)。

ダミアーノ:そうやって君が評価されるのは、バンドにとってもいいことだよ。

トーマス:うん、僕らはみんな一緒に育ったわけだし、バンドの枠外でも自分を表現する機会を得られたならそれは素晴らしいと思う。

イーサン:とにかくヴィクトリアは最強。賞賛されて当然だよ。

ヴィクトリア:ありがと!(笑)

ーそもそも、「トーキング・ヘッズのティナ・ウェイマスにインスパイアされた」とあなたが話していたことをジョンが覚えていて、「Psycho Killer」をカバーするにあたって声をかけてくれたそうですね。

ヴィクトリア:私は彼女のベースプレイが大好きだし、トーキング・ヘッズも大好きだし、ティナには子どもの頃ものすごくインスパイアされた。彼女とソニック・ユースのキム・ゴードンは、ベースを弾くめちゃくちゃイケてるロック・ガールズで、ふたりに憧れずにいられなかった。彼女たちが活躍した時代のロックシーンは今以上に男性に支配されていて、女性がギターやベースを弾いていたら、「ルックスがいいからバンドにいるだけ」とか侮辱的な扱いをされるのが常だったでしょ? 今でもTikTokなんかに投稿されている私の動画にはたいてい「どーせ弾いてないんだろ」とか「ああやって裸になって挑発してるだけだし」とか、男性からのひどいコメントがついていて腹立つんだけど(笑)、ティナたちが勇気をもって道を切り拓いてくれていなかったら、今の私はいなかったと思うな。




ティナ・ウェイマス
〈史上最高のベーシスト50選〉より(Photo by Richard E. Aaron/Redferns/Getty Images)

ー2023年の大きなニュースと言えば、大先輩のザ・ローリング・ストーンズが18年ぶりの新作『Hackney Diamonds』を発表したことが挙げられます。80代までバンド活動を続ける自分たちを想像できますか? ダミアーノは「勘弁して」という顔をしていますが(笑)。

ヴィクトリア:それができたらすごくうれしいし、たぶん私なら大丈夫。きっとロックンロール・グランマになるから(笑)。

トーマス:僕もやっていけると思うよ。

ヴィクトリア:アルバムもすごく良かった。何しろ自分たち独自のジャンルを確立している人たちだし、どれだけ年月が経ってもそのスタイルをキープしていて。

トーマス:彼らのオープニング・アクトを務めた時にも、ステージ脇でパフォーマンスを観ることができて、ビックリするようなエネルギーを感じたしね。ライブでのストーンズは最高だよ。

ヴィクトリア:ミック・ジャガーは私たちよりも激しく動いてた(笑)。

ードリー・パートンも然り、ストーンズも然り、大物たちと対面して、「なるほど、だから彼らは息の長いキャリアを築くことができたんだな」と納得させられる瞬間はありましたか?

ヴィクトリア:うん。実際に会ってみると、すごく些細なことからも分かる。例えばミックとキース・リチャーズはわざわざ時間を割いて私たちと話しに来て、マネスキンを聴いてると言ってくれたりしたし、ドリーもトム・モレロもそうだった。その一方で最近のビッグ・アーティストは、年齢的には私たちとそんなに変わらなかったりするけど、スノッブで、楽屋に閉じこもって誰とも会いたくないってゴネたりして、「いったい何なの?」って思う(笑)。実際に歴史に名前を刻んだ本物のアイコンたちはものすごく謙虚で、私たちとお喋りして、色んなことを教えてくれたのに。

トーマス:あと、ニューヨークでグローバル・シチズン・フェスティバルに出演した時にメタリカのジェイムズ・へットフィールドに会ったんだけど、何に驚いたかって、彼もふらっと僕らの楽屋にやってきたんだ。もう、言うこと全部がクールだったしね。

ダミアーノ:本当にビックなアーティストは偉そうにしない。ものすごくヒューマンだしね。偉そうな人たちは結局、自分に自信がないんだろうね。

Translated by Yuriko Banno, Post Production by Kenneth Pizzo @pizzok

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