音楽を「撮る」ことの意味、愛だけではなく「手法」や「哲学」の大切さ

左からハタサトシ、矢島由佳子

写真家・ハタサトシと、音楽ライター/編集者・矢島由佳子が、「音楽を“撮る”」と題した対談を実施。アーティストを撮影・取材する際の心構え、「写真や記事はアーティストを売るためにあるのか?」「『作品に愛を感じます』は褒め言葉ではない」などをテーマに、様々なアーティストと関わりながら仕事をする二人の考えを語り合った。

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※本記事は2023年10月28日に渋谷PARCOにて行われた「PARCO PRINT CENTER」内のトークイベントを書き起こしたものです

アーティストをかっこよく撮るのは誰でもできる

ハタ:知り合ったのは意外と最近なんですよね。

矢島:ハタさんが写真を撮って私が文章を書くものが、BMSG(SKY-HI主宰のマネジメント/レーベル)関連の記事などこれまでたびたびあったんですけど、意外と現場で話したことがなくて。Aile The Shotaさんの名古屋公演でご挨拶させてもらったことがきっかけですよね。ハタさんは自分のエゴよりもアーティストを立てているというか、アーティストとちゃんと向き合っていることを写真から感じていて、そういった熱量や姿勢みたいなものをリスペクトするし、おこがましいですけど共通点を感じていたところがありました。


Aile The Shota/Photo by Satoshi Hata

ハタ:矢島さんの文章から、考えていることや伝えたいことの距離感が近い方だなと思っていたので、今回PARCOさんからトークイベントの機会をいただいた際に、「一緒にしゃべりましょう」と。

矢島:お誘いいただき大変光栄です。普段みんながSNSやネットで見るハタさんの写真はアーティストものが多いと思うんですけど、去年PARCOでやられた個展では、ハタさんがいろんなところを旅する中で撮影した写真を展示されていて、そのどれもが本当に美しくて。『Outside The Spotlights』というタイトル通り、スポットライトの当たってない人たち含めて、「誰しもの人生がしわくちゃだけれど、それでも美しいんだ」ということを表現されているように感じました。


『Outside The Spotlights』



ハタ:こんな世の中、「スポットライトが当たってない」と思っている人が大半じゃないですか。というか、「なんで当たってないんだろう」という考えを持ってしまう現状がおかしいとも思う。自分自身を肯定するって難しいけど、それだけをしてほしいじゃないですか。自分を肯定できたら確実に人生はハッピーだし、それができて人にも優しくできるし。自分を肯定できる要素をみんな探していると思うんですけど、「探さなくてもあるよ」ということがあの展示では伝わるといいなと思ってました。それは、僕がスポットライトを当たっている人たちを追いかけているから気づけた部分でもあります。

矢島:写真に写る人の綺麗な一面を切り取るのではなく、人生や生活の皺までが見える写真ですし、ちょっとした一瞬のきらめきの前後のストーリーが浮かんでくるような写真だなと思ったんですよね。

ハタ:その人の中では通常の流れのワンシーンだけれど、それを見返したときに、その前後や、その人の生きている時間の流れが見えるものが好きなんだと思うんですよね。ニューヨークのサブウェイで撮った写真も、僕が階段を下りたときに、サブウェイから降りてきた人が自転車を担いで階段を上ろうとしていて。僕からするとめっちゃかっこいいと思って切り取った一瞬だったけど、多分この人にとっては特別な一瞬ではない。でも「急いでるのかな」「誰かが待ってるのかな」「仕事に行くのかな」って頭の中で想像できるじゃないですか。その時点で、僕の中で彼は彼の人生をちゃんと生きていると思う。そういう写真が好きなんですよね。



矢島:そういった感覚は、アーティストの写真を撮るときも同じですか?

ハタ:音楽の写真においても、そういうものが撮れたらいいなと思ってます。正直、かっこいい写真を撮ることなんて誰でもできるんですよ。(被写体が)みんなかっこいいから。それより、何かに対して悩んでいるとか、苦しいとか、嬉しそうとかが垣間見えて、その一瞬から前後を想像できるものに惹かれるのかなと思うんですよね。

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