クーラ・シェイカーが語る爆発的なバンド・マジックと過去・現在・未来、日本への特別な想い

Photo by Nicole Frobusch

 
昨年2月に来日した時点で、「すでにレコーディングを初めている」と明言していたクーラ・シェイカーのニュー・アルバム『Natural Magick』がいよいよ完成。前回のツアーからバンドに復帰したキーボード奏者、ジェイ・ダーリントンを含むオリジナル・メンバーでのアルバムは、実に25年ぶりだ。

新作には1stアルバム『K』(1996年)を特別なものにしていたグルーヴ感が横溢しているが、同窓会的なユルさは微塵もない。長年ヴィンテージ・ロックをマニアックに研究し続けてきた知とスキルの蓄積が、主にリズム隊によって持ち込まれるという現代的なアプローチと見事に合致。昨年のツアーで体感させてくれた通りの、このメンバーからしか生まれ得ない爆発的なバンド・マジックに惚れ惚れさせられる。通算7枚目にして新たなピークを迎えてしまった『Natural Magick』と2月の再来日ツアーについて、クリスピアン・ミルズに訊いた。


「過去・現在・未来」がひとつに

─ニュー・アルバム完成おめでとうございます。ツアーでの好調ぶりがそのまま反映された、躍動感溢れるアルバムに仕上がったな、という第一印象を受けました。あなた自身は『Natural Magick』について、どう感じていますか?

クリスピアン:リセットでありリバース(再生)でもあるね。ジェイ(・ダーリントン)がバンドに戻ってきたことによって、僕たちは文字通りルーツに立ち戻ることができた。過去・現在・未来がひとつになった奇妙なコンビネーションの作品なんだ。このアルバムを作っている間、僕たちはまた一緒にプレイするようになっただけじゃなくて、再び一緒に生活するようにもなった。スタジオ作業をしている間、みんなでブライトンの同じところで暮らしていたんだ。イギリス東海岸の海辺の街にね。ギグの合間にレコーディングをやって、夜になると同じアパートに帰った。ザ・モンキーズみたいな生活だったね。僕たちがキッズの頃は、共同生活を送っているバンドはあまり多くなかった。当時ですらね。今回はそういう生活をまたやったんだ(笑)。

笑いが止まらなくてとても面白かったよ。みんな昔のやり方にうまく戻れてね。ジェイとアロンザ(・ベヴァン:Ba)……アロンザがたくさん紅茶を淹れてくれるんだ。ポール(・ウィンターハート:Dr)は料理をしたり大騒ぎしたり(笑)。僕はたくさんお香を焚いて……昔とまったく同じような感じだった。ユーモアのセンスも同じだったしね。そんなユーモアのセンスがこのアルバムには表れていると思う。それは僕たちがお互いを楽しませているところからも来ているんだ。そんな訳で、このメンツでまた音楽をやるようになったら、一瞬のうちに再びコネクトすることができた。キッズの時と同じようにね。

去年の2月に恵比寿でインタビューしたとき「もう4曲録音した」と聞いていましたが、その後もずっと忙しかったのによく仕上げる時間があったなと思っていたところです。でも一緒に住んでいたら、そういう時間を作るのも少しは楽だったのかもしれませんね。

クリスピアン:何日か連続でギグをやったら、次はスタジオに1週間入る、みたいな感じでやっていたんだ。アロンザはベルギーの自宅に戻って、僕はミキシングやオーバーダブをやって。その後ミックスはアッシュ・ハウズという人がやってくれた。ハリー・スタイルズとかポップ系をたくさん手がけたことで知られている人なんだけど、今回ロックをやるということですごく乗り気になってくれたよ。と言う訳で、このアルバムには才能を持った様々な人たちの様々な経験がたくさん込められている。アッシュは僕たちがツアー中にミキシングをやってくれてね。すべてが一度に起こっていたんだ。途中ストップしたりスタートしたりしながら、とにかく車輪を動かし続けていた感じだね。


Photo by Nicole Frobusch

─アルバムの頭4曲は先にツアーで演奏されている曲ばかりで、今のクーラ・シェイカーのライブの魅力をとてもわかりやすく伝えてくれる、頭にガツンと打ち付けてくるような素晴らしい曲順でした。この曲順はどんな風に決めていったんですか?

クリスピアン:こうなることが自然にわかることもあるんだ。(「Gaslighting」の歌詞)”Brothers and sisters, we gather together here to witness the great congregation”(兄弟姉妹よ、僕たちはここに集まり大集会を目にすることになる)がアルバムのオープニングにふさわしいのは明らかだしね。だけどあの歌詞を書いたときは、この曲でアルバムをスタートさせることなんて考えていなかった。あれはギル・スコット・ヘロンの「The Revolution Will Not Be Televised」をもじったものだったから。彼を21世紀に連れてきて茶化しているんだけど、同時に大切なオマージュでもある。ということであれが明らかなイントロダクションになって、それから……僕は全体の雰囲気を盛り上げるサウンド・エフェクトを組み立てていた。ラジオがチューン・インするところとかね。あれはみんなアクロニズム(アナクロニズムとほぼ同義、過去の遺物)で、冒頭からいきなりレトロ・ファンタジーなんだ。

アルバム全体はジョークみたいな感じだけど、divine comedy(ここでは「すてきなコメディ」の意)なんだ。コメディには真実がたくさん込められている。遊び心たっぷりの内容だからといって、必ずしも心がこもっていない訳じゃない。

─すごく解る気がします。「Gaslighting」は1stアルバム『K』を愛するファンに対しても速攻性がある曲だと思うし、同時にとても考えさせられる現代的なテーマを扱ってもいますね。歌詞の内容を気にせずとも乗って楽しめますが、この二面性が、とてもあなたらしいなと思いました。

クリスピアン:そうだね……僕たちは政治的なバンドじゃないし、そうなれるほど偉ぶってはいない。でも世の中に目を向けてみると、あまりに多くのことが政治化されている。音楽も映画も、子供向けのエンターテインメントまで政治化されてしまった。だから身の周りのことを歌っていても政治的な要素が絡んでくる。世界がそういう風になってしまったからね。でも僕たちのものの見方や表現は政治的ではないんだ。ただの人間的な反応であって、……(言葉を選びながら)……僕たちはできるだけあらゆるレッテルや箱、パラダイムから距離を置くようにしている。解るよね? みんなグループや箱に分けられてしまっているけど、そういうものを超越しようとしているんだ。スピリチュアルな生活ってそういうことだよね。制約のあるものを超越して、普遍的なもの、つまり愛とコネクトすることなんだ。そうだろう? コメディも同じだと思う。コメディはバリアを打破する。この困惑の状態に閉じこもったところから自由になれるものなんだ。……(と真面目に話してから、最後にへへっと笑う)

─「Waves」は、あなたたちを支えてきた世界中のファンに対する感謝の想いを込めた曲、と受け止めました。『K』でデビューした頃のあなたたちは孤高の存在という感じで、圧倒的な才能を見せつけるクールな新人、と思っていましたが。この曲を通して、ファンの存在がどれほどあなたたちにとって大きかったのかを、初めて具体的に知った気がします。

クリスピアン:そう、あれは2022年~2023年にコンサートをやったことで生まれた曲なんだ。僕もファンの気持ちは解るし、ショウに行ったりして生まれるコネクションにも感謝している。それは手放しちゃいけない、一緒に連れていくものなんだ。経験を歌うことにもなるしね。

いいストーリーは必ず“層”になっているんだと思う。「Waves」は明らかにそれだね。その辺りがさりげなくて普遍的な内容になっている曲もあるけど……クーラ・シェイカーはファンなしでは何者でもないからね。本当だよ。森の中の倒木みたいになってしまうんだ。そうなると誰も聴く気にならない(笑)。



─タイトル曲の「Natural Magick」は、カン(CAN)の曲を弾いているうちにアイディアを思いついたそうですね。

クリスピアン:カンはクラウトロックのバンドだね。ポールが大ファンなんだ。どの曲だったかは思い出せないけど、その曲からグルーヴのアイデアが生まれた。この曲ができたのは偶然で、僕が遊んでいるうちに偶然2小節ほどのループを作ったんだ。それを聞いてポールが何かトライしようとした。「カンのドラマーみたいにやってみようかな」みたいにね。そこからはすごく早かった気がする。グルーヴもリフも早く思いついたし……1時間くらいで書けたんじゃないかな。僕が書けなかったボーカルのリズムはアロンザが書いてくれた。タイトルも自然に感じたんだ。アルバムのタイトルとして使うのも自然な気がしたね。



─この曲ができた時点で、アルバムのタイトルになることを確信していたわけですか。

クリスピアン:そうかもしれないね。心の奥ではわかっていたのかもしれない。最初の時点では、曲のタイトルとしてしっくり来ていただけだったけど。でも僕たち全員が意識していたのは、誰かと通じ合っていい関係が持てると……(ここで昔ながらの呼び鈴の音が)……ごめん、ちょっと待ってて。……(10秒くらいで戻ってくる)……ごめんね。今のベルは電話だったんだ。この家にはレトロな物しか置いてなくてね。

─(誰かが横から赤い昔ながらの電話を差し出して見せてくれる)。うわぁ、今でもこんなダイヤル式の電話機があるんですね!

クリスピアン:そう。この電話でバットマンと話すんだ(笑)。

Translated by Sachiko Yasue

 
 
 
 

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