サブスク時代を先取りしていた大滝詠一『EACH TIME』、評論家・能地祐子と読み解く

静かな伝説 / 竹内まりや



流れているのはこの番組の後テーマ、竹内まりやさんの「静かな伝説」です。

ポップ・ミュージックには旬という言葉があって、その時代を反映している音や、その時代の流行の楽器やアレンジがあるわけですが、大滝さんのアルバムには旬のものが入っているにも関わらず、旬の感じがないんですね。いつ聴いても違う聴き方ができる。特にこの『EACH TIME』はそういう究極のアルバムでしょうね。

話の中で何度も出てきましたけども、曲順が変わるだけで全く違う聴き方ができる悲しいアルバムにも思えるし、ドラマチックなアルバムにも思えるし、ポップなアルバム、明るいアルバムにもなるという。これが彼が自分で詞や曲を書いているということだけではないですね。アレンジもミキシングもマスタリングも全部やって、マスターテープを自分で保管していた。能地さんの言葉を借りれば常に見切り発車で作品を残してきて、見切り発車を時間が経つにつれて見直すことができる。見直す度に違うものがバージョン違いで発売されてきた。その最たるものが『EACH TIME』でしょうね。

これも彼女があらためて言ってましたけども、『EACH TIME』はサブスク時代を先取りしていた。聴き手によって全部聴き方が違うアルバムなんだよということですね。僕も初めて聴いたときよりもしっくり来ています。若いときよりも今聴いたときの方が発見もいろいろあっていいアルバムだなと思える、年齢が上がったから実感できる、そういうアルバムだと思いますね。そして、謎がたくさん残されているアルバム。こんなに謎が多い。能地さんの言葉を借りれば数奇なアルバムがあるでしょうか。



<INFORMATION>

田家秀樹
1946年、千葉県船橋市生まれ。中央大法学部政治学科卒。1969年、タウン誌のはしりとなった「新宿プレイマップ」創刊編集者を皮切りに、「セイ!ヤング」などの放送作家、若者雑誌編集長を経て音楽評論家、ノンフィクション作家、放送作家、音楽番組パーソリナリテイとして活躍中。
https://takehideki.jimdo.com
https://takehideki.exblog.jp

Rolling Stone Japan 編集部

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