亜無亜危異、デビュー40周年で取り戻したパンクの初期衝動「ようやくピストルズに勝ちに行ける」

『パンク修理』とピストルズの思い出

―『デビュー40周年祝賀会 プランクス・イズ・ノット・デッド』ではライブのあとに4人のトークショーがあり、そこで初めて新しいフルアルバムを作って全国ツアーをするという計画が発表されました。あのとき伸一さんは「これから曲を作らなきゃ」って言ってましたけど、あの段階ではまだ作り始めてなかったんですか?

藤沼:うん。ただ、タイトルだけ決まってるのはいくつかあって。亜無亜危異の場合、タイトルを先に考えて、そこから作り始めることが多いんですよ。そのほうがやりやすいから。「馬鹿とハサミは使いYO!」なんかも、そのフレーズだけ先にメモってあって。曲と歌詞はあの時点でまだほとんどなかったんだけど。


「デビュー40周年祝賀会 プランクス・イズ・ノット・デッド」にて(Photo by 渡邉俊夫)

―あの時点で新作は初夏のリリースを予定していると話していましたが、ずいぶん早くできましたよね。相当順調に進んだわけですね。

藤沼:さっきも言ったように、ダラダラやっててもしょうがないから。締め切り決めてやると、意外に浮かんできたりするんだよね。

―『パンクロックの奴隷』に続いて今回も伸一さんが全曲のデモを作ったんですか?

藤沼:うん。で、「ここはこうしたほうがいいんじゃね?」って意見はもちろん受け入れて。

―デモの段階で、どの程度作り込むものなんですか?

藤沼:歌詞も含めて、ほとんど全部。最初に曲の感じをテープに録って、歌メロ部分はピアノで弾いてみんなに渡して。ほら、コードとかリズムとか、先にわかってたほうがいいだろうから。で、歌詞をのっけていって。



『パンク修理』レコーディングは10日間で全工程を終了した

―今回は11曲収録されてますけど、だいたいどのくらいで?

藤沼:1カ月くらいですかね。

寺岡:驚異的だよね、1カ月で11曲作るって。

藤沼:それが普通だって思われると、「じゃあどんどん作れよ」って言われちゃうから、当たり前だと思わないでもらいたいんだけど(笑)。

寺岡:でも今回そうやって短い時間で伸一が作った曲が、『パンクロックの奴隷』のときよりもさらにポップな曲になっていて、それは面白かったし、新しいアプローチだなと思った。



―バンドとして、いまはとにかくポップで明快な曲をやりたいというモードなんですかね?

藤沼:『パンクロックの奴隷』のときから、亜無亜危異でいまやるのはこういうパターンが面白いんじゃないかって思ってて。要するにラジオとかで流れてパッと聴いた瞬間、「おっ、ポップじゃん」って思ってもらえるもの。ポップなメロディに過激な歌詞が乗ってるほうが絶対面白いだろうと思うから。

―茂さんは今回、伸一さんからあがってきた曲を聴いたとき、どんなふうに思いました?

仲野:なんていうかな、ちょっとまた昔を思い出したっていうかね。昔、ピストルズの『ネヴァー・マインド』(Never Mind the Bollocks、邦題:勝手にしやがれ!!)を聴いたときに、「このアルバムを抜こうぜ」って話したことがあったんだよ。で、そんな話をしたよなぁって、今回の曲を録りながら思い出した。オレたちがいまできるパンクってなんだろ?って考えると、こういうふうにポップさもあるものなんじゃねえかなって。

―昔、みんなで一緒にセックス・ピストルズのレコードを聴いたんですか?

仲野:うん。寺岡んちでみんなで聴いて、「かっこいいな」って。「このアルバムを抜きてえな」って話してたんだよ。それからずいぶん時間が経ったけど、今回『パンク修理』ができて、これでようやくピストルズに勝ちに行けたなって思えたというか。

―アルバム・タイトルは『パンク修理』だし、「パンクのおじさん」なんて曲もあったりするわけですが、還暦を迎えた現在の4人にとってのパンクの概念って、言葉にするとどういうものですか? 昔の捉え方とは当然違っているところもあるでしょうし、でも「変わらねえよ」ってところもあるとは思うんですが。

仲野:パンクって何かって言ったら、やっぱり初期衝動みたいなものだよね。ほんとにマルコム(・マクラーレン)はいい言葉を作ったなと思うし。で、パンクはその後、ファッションになっちゃったところもあるけどさ。でもオレたちが初めて『ネヴァー・マインド』聴いてショックを受けたときの感覚はやっぱり忘れられないものだし、もう一度それをオレたちが若いやつらに味わってもらいたいみたいな気持ちもあるしさ。そういうアルバムができた気はしてるんだよ。

―伸一さんはどうですか?

藤沼:パンクって、枠からはみ出ることだと思うんですよ。ロックもそうだけど、初めはそれまでの価値観を壊そうっていうんで始まったと思うんだよね。だけど結局ひとつのカテゴリー内にいるやつって多いじゃない? ハードロックだったら髪を伸ばすとか、未だにそういうところがあって。意外とみんな、こじんまりとそういう枠に収まりたがるんだなってずっと思っててね。オレはそういうのが好きじゃないのよ。だから茂があの声でポップなメロディを歌うっていうのが面白かったりするし。いままでなかったじゃん、キレイなメロディを茂が歌うなんてさ。で、歌詞もいたずらを随所に入れて。ただただ「ぶっ壊せ!」みたいなことじゃなくてね。オレはだから、枠からはみ出たいんだよね、いろんないたずらしながら。それをやるにはこのバンドが最適だなと思っていて。

―寺岡さんはどう考えてますか?

寺岡:パンクで始まって、そこからミュージシャンとして成長して、テクニックもついていって、より音楽的になったのがTHE ROCK BANDだったわけですけど、そこはあえて封印して。もう一度シンプルなところに立ち返ったのがいまの状態だと思うんです。で、今回は初期に戻りつつも新しいものを提示できたかなって気がするんだよね。歌詞も痛快だったりするし。その痛快さが、いまの自分たちにとってのパンクってことなのかなと。

―なるほど。コバンさんはどうです?

小林:僕は特にこだわりはないんです。

仲野・藤沼・寺岡:わははははは。

小林:まあ、一括りにパンクって言われて、自分たちでもパンクだって言ってるところは確かにあるんですけど、特にそういう括りを考えたことがなくて。いろんなジャンル、いろんな呼び方を、いろんなひとたちがしてたり作り上げたりしてますけど、自分はそのへん、まったくこだわってないですね。

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