コロナ後遺症に苦しむ人々 米国社会の実態

政府や保険会社、雇用主が取り組むべき課題

コロナ後遺症を抱えつつ、住まいの問題にも対処しなければならないのは「悪循環」だとテイラーさんは言う。「当たり前のように思っていた日常業務――顔を洗うとか、水を飲むとか――が、ホームレス状態だと一仕事なんです。頑張って計画しないと動けない」と本人。「完全に矛盾していますよね、(コロナ後遺症にかかると)一息ついて休まなきゃいけないのに。常に自分を追い込まないといけない。その分余計に具合が悪くなるし、生きていること自体が難しくなる。そうなると、なおさら自分を追い込まなきゃいけなくなる。きりがありません」

アメリカの医療制度が崩壊していることは周知の事実だが、多くの人々が有害な「自足自給」という考えにいまだにとらわれている。つまり、一生懸命働いて、十分社会に貢献した人だけが、必要な治療を受けられるという考えだ。

コロナ後遺症の人々は、自分が病気であることを認めてくれない人たちと絶えず向き合っている。その上に住所不定となれば、シェルターやフードバンクや無料診療所などサポートしてくれる場所があるのになぜこんな状況になったのか、と疑問視する人々の白い目に対処しなければならない。

「シェルターに行ったらどうだ、というアドバイスはしょっちゅう受けます――最適な環境のシェルターでも、コロナ後遺症の患者のニーズをちゃんと満たしてはくれません」とテイラーさんは言う。テイラーさんやフィンリーさんのように、免疫不全の人々にとってはとくにそうだ。人が大勢詰め込まれた屋内空間――簡易ベッドがぎっちり並べられた満員の緊急シェルターもまたしかり――では再び感染する危険が高くなるため、有効な選択肢とは言えない。

同じようにフィンリーさんも、善意からではあるものの、見当違いでお節介なアドバイスを聞かされている。こうしたアドバイスをする人々は、彼女のような状況の人向けのセーフティネットがたくさんあって十分アクセスもしやすく、ニーズにも適切にこたえてくれると考えている。「みなさん、リソースが用意されていると思っています」と彼女は言う。「たしかにいくつかそういうものはありますよ。でもどこも逼迫しています。今では誰もが辛い思いをしているんですから」

コロナ後遺症によって収入を失い、住む場所を失ったらどうなるか? その例がブライアントさんの死だ、とフィンリーさんは言う。「雪だるま式に、まずは医療制度から締め出され、(次に)必需品が入手できなくなります」とフィンリーさん。「シェルターに行けばいいじゃないか、と皆さん思うでしょう。そんなに簡単な話だったら、彼は死ななかったはずです」

コロナ後遺症の影響に対する理解や認知はいまも欠けている。だからこそ、サヴェージさんはブライアントさんと自分の物語を分かち合うことにした。「私たちのような経験は誰にもしてほしくない」と彼女は説明する。「そして世間には、コロナ後遺症が実際に存在して、生活を大きく変えてしまうことを知ってほしい。全部がいっぺんに押し寄せれば、立ち直ることができないほど圧倒される場合もあります。仕事も、健康も、精神も、社会生活も――尊厳も失ってしまう」

コロナ後遺症の原因や治療法についてはまだまだ研究が必要だが、現在後遺症を抱えている人をサポートしなければならない――サポートするのが当然だ、とラニー博士も言う。「(研究で)あらゆる情報を蓄積する余裕はありません。財政的被害を受けている人たちを救わなくては」と彼女は言う。「政府や保険会社、先見の明を持った雇用主の側がリーダーシップを発揮して、この問題に取り組む必要があるでしょう」

その間テイラーさんは人生の目標リストに取り組んでいる。パンデミック前に作成し、コロナ後遺症として生きる現実に合わせて微調整したものだ。最初にリストを作成してからいろいろな出来事があったものの、彼女は今も与信スコアをあげるという目標の達成に向けて奮闘中だ。「与信スコアで一番になっても、無収入で働けなかったら無意味ですけど」

何より、今後のことは自分の健康次第だということをテイラーさんもわかっている。「住む場所や車が欲しいですね」と彼女は言う。「働きたい。生活したい。まずはよくなること――少なくとも、どこが悪いのかを知って対処できるようにすること――それが最初の1歩です」

from Rolling Stone US


Translated by Akiko Kato

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