マカロニえんぴつ・はっとりが振り返る10年間、王道と違和感のある音楽を作る理由

―先ほどツアーの話が出ましたけど、2月に開催した武道館公演の映像化が決まりましたね。改めてどんなステージでしたか?

ツアーの初日と2日目なので、メンバーや舞台チーム、照明チームを含めてみんながすごいプレッシャーを感じていました。しかも映像が入って形として残ってしまうので、最初から最高のクオリティを届けないといけないし、届けたいという思いから、来た人に「意外とまとまってないし、アルバムの世界をライブだと表現できてないな」とガッカリさせたくなかったんです。もはや、その一心。

―結果はみんな大絶賛のライブになりました。

徹底してゲネをしたし、これで本当に大丈夫か?と重箱の隅を突きながら準備したおかげで良い2日間になったなと。みんなが良いものを作ろうと歩幅を合わせていったので、想像以上に良いライブをスタッフやお客さんと作れました。

―最近は地元・山梨でライブを行いましたよね。

山梨でやった凱旋ライブはね、胸が熱くなる瞬間が多かったんですよ。

―胸が熱くなる瞬間っていうのは?

ステージで歌ってるときに、長い紐の両端がきっちり結ばれた感覚を覚えたんですよ。振り返ると、バンドを始めた頃の原動力は“憧れ”しかなかったんです。そして憧れに向かって奮い立たせてくれた環境のありがたさに、当時の僕は気づけなかった。

―自分だけじゃなくて、それを支えてくれた人がいたんだと。

何者でもなかった僕に「お前には何かある。行ってこい」と背中を押してくれた親父がいた。大学で出会って「はっとりは特別かもな」と言って調子に乗らせてくれたメンバーがいた。それは僕が憧れ続けるために必要なものだったんだと思ったとき、嬉しくなると同時に、今さら気づいたことに恥ずかしくなって。あの……今回の10周年ツアーを通して、僕を特別でいさせてくれた周りの存在に気づかせてもらったんです。ステージに立てばお客さんが「お前は特別だ」という眼差しで僕を見てくれたり、SNSの感想なんかも「はっとりはスターだった」とかね、嬉しいことを言ってくれるんですよ。そうすると、やっぱり俺は特別でいたいと思うし、調子に乗ってまた走り続けられる。



―武道館公演でも「俺たちは憧れのプロです。今は“何も持ってない”と思っているあなたも何かのプロ。それに気づいたとき、絶望から抜け出来るのではないでしょうか」と言っていたり、インタビューでも「居場所を見つけれない人に向けて“あきらめるにはまだ早いよ”って、嫌味じゃない言い方で伝えたい」と言ってましたよね。

それはマカロニえんぴつを始めたときに思っていたことの1つですよ。自分が自分の憧れに近づきたいからバンドを組んだ。言い方を変えると自分本位のプロというか、僕は巻き込んできた人生しか見れていない。だからこそ肯定してあげたいんですよ。周囲を巻き込んで自分の憧れに付き合ってもらう、それをプロと言ってあげないと面目が立たないし、周りの人に申し訳なくなっちゃう。だから胸を張ってみるか、と。バンドを始めたときは何も持っていないからこそ、何かを持ってる人間になりたいと思って憧れたわけだから。10年を振り返って、今自分が思っている価値観を伝えたかったんですよね。

―そう言えるようになったのも、憧れを形にしたからでしょうね。

ビルボードで1位になるなんて想像も出来ていなかったですし、レコ大を取ったこととか、『ミュージックステーション』に出れたとか、武道館に立てたとか、色々と報われる瞬間が増えて。その度に間違ってなかったんだというか、あっていたんだなって。みんなも執着とか意地が報われる日が来るはずだから、「自分なんか」という卑下はやめた方がいいよって思う。基本的に人に何かを説く瞬間は無責任だし、お節介なんですよ。ただ、お節介でもいいから、もしも自信のない人がいるのであれば、卑下は良くないし、何かのプロであるはずだから漠然と根拠のない自信を持つことは大事だぜって言いたいんです。だって、僕の人生がそんな感じだったので。

Rolling Stone Japan 編集部

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