吉田豪が翔とTAKUと語る、故・嵐ヨシユキの思い出と「横浜銀蝿」の軌跡

銀蝿伝説の真相

―翔さんと一緒に番組をやらせてもらう過程で聞いたのは、事務所の命令でまず喉を潰すミッションがあったっていうのは聞いてましたけど、車で走りながら看板をひたすら読むミッションもやらされたりもしたらしいですね。

翔 そうそうそう、まずはストレートに言葉を発するために喉を潰す。そして看板を大きい声で読むことで滑舌をよくする、1個ずつの言葉がハッキリと相手に伝わるように。最初の頃は言われるがままやってたけど、看板を読むのはすぐに結果が出たんだよね。ちゃんと言葉が乗るっていうのを理解できて、これはすごいと思った。いまでもやってますよ。フニャフニャ歌ってたら銀蝿のロックンロールは伝わらないと思うんだけど、それがドーンといけたのはその練習があったから。ボイトレにはない部分だと思うけど、それがすごく効いてると思う。喉を潰すことに関してはなんだかわかんなくてやってきて、とりあえず決定的には潰れないで持ったからここまでこられたけど、いろんな人に聞くと「それは危険だよ! 声が出なくなっちゃう」って。

―そりゃそうですよ(笑)。

翔 潰れたら戻らないから、そこは賭けだったんだろうけど、喉を潰す前よりはぜんぜんいい声になったし。滑舌に関してはすごい古めかしいというか、他にもきっとやり方はあると思うんだよね。だけど俺には一番合ってたと思う。

TAKU あと、あれ不思議じゃなかった? 最初、ラジオの練習っていうか、しゃべりをカセットテープに入れて提出しろってことで、みんなで集まって仮想のラジオ番組をデビュー前に一生懸命、海岸でラジカセを押して「ハイやって来ました!」「今日の1曲目はナンタラ」とか、しゃべりの練習をしてたの。そのときは、ロックンロールバンドでいまから出て行こうとしてる俺たちになんでラジオの練習させるんだろうなと思ったりはしたけど、いま思えば練習になったから。

―ちゃんと役には立ったわけですね。

TAKU そうそう。そういう不思議なトレーニングもあったよね。「30分カセットにしゃべってこい」とか、ふつう言わないもんね(笑)。

―ふつうに不良路線の硬派なバンドとしてデビューするとしたら必要ないことかもしれないけど、銀蝿には正解だったっていう。実際にラジオもやるわけだし。

翔 革ジャンを着てリーゼントしてサングラスかけてってなっていくと、自分たちでそういう方向に行っちゃいがちじゃない。だけど実は愉快な仲間で、嵐さんもくだらないことたくさんしゃべるし、俺もJohnnyもTAKUもおもしろおかしくしゃべるのが好きだったから、その練習をすることによって、ふつうにラジオ番組に出ても自分たちの素のままでいけたっていうのかな、そうじゃないと出たときに「(格好付けて)俺たちはさあ」「ロックンロールってこうなんだよね」みたいになりがちでしょ。それが「どうもー!」ってできたそのギャップがおもしろかった部分もあると思うんだよね。そんなことやってるのが『D.J.Rock’n Roll』とか、ああいうのにつながってくるわけでしょ。

―キャロルやクールスはその練習してないですもんね。

TAKU 絶対しないでしょ(笑)。

―そこがぜんぜん違う。個人的に気になってるのが、嵐さんがある程度膨らませて銀蝿伝説的なものを作ってた部分もあるんじゃないかと思ってて。たとえばデビュー前「オーディションに36回落ちた」とかも嵐さんが膨らましてるんじゃないかって疑念がちょっとあって。

翔 いや、それは膨らましてない、ホントに落っこちてた。アマチュアの頃からオーディションを受けてるんで。あとカセットを持ってったりっていうのはデカい事務所にしかしてないけど、それ以外にもいっぱい出してる。だからホントは36回よりもっとやってますよ。コンテストも全部1回戦で負けたけどホントに出てたし、だから膨らませてない、むしろ少ないぐらいかも……。

TAKU でも嵐さん、俺と会ったときには「俺たち横浜じゃ知らねえ人いねえ」って言ってて。それ大風呂敷だったってことだよね?

翔 ハハハハハハ! そりゃそうよ。でもファンはいたんだよね。Johnnyがいて俺もいてコンサートおもしろいから、予選大会とかは一般のお客さんも観に来るじゃないですか。だからアマチュアでもコンサートやったら戸塚公会堂とか200~300人は入るバンドだったから、でも「横浜じゃ知らねえ人いねえ」なんて(笑)。テレビ神奈川とか『ぎんざNOW!』とかも出たし、暴走族のヤツらとかはあの頃みんな観てたから、そういうので地元ではある程度は知られてたけど、そういうところは膨らませてるとこあるよね。

―番組のゲストに来たTMNの木根尚登さんが、前身のSPEEDWAY時代に同じコンテストに出てたって話をしてましたね。

翔 そうそうそう。そうやって実際に動いてると、向こうもきっと銀蝿のことは覚えてると思うんですよ。名前も印象的だし、楽屋ではちょっとでもうまいヤツらをビビらせて萎縮させて本番で失敗するようにっていう小賢しいこと考えて圧をかけたり。水飲み場に行って、「なんでおまえコップ洗わないで水を飲むんだ」とか。

―因縁を吹っかけて(笑)。

翔 「おまえ、俺の女が飲んだコップでそのまま飲むのか」とか大騒ぎして、みんななんかシーンとしちゃって。本番が始まるとみんなうまいからぜんぜん効かなかったけど(笑)。でも、木根さんとやったときベストボーカル賞だもんね、俺。

―ヤマハのコンテストで。

翔 そうそう。そのへんは膨らましようがないけど、「横浜では知らないヤツいない」って言う一面も嵐さんはあるんだろうね。

―デビューコンサートを横浜市教育会館というホールでやってたりとか、それなりの存在ではあったわけですよね。

翔 そうね、横浜じゃ(笑)。

―何がギミックで何がホントなのかわからないなかでいえば、ボクは銀蝿のデビューコンサートでの嶋大輔さん補導事件の真相を本人に聞いてみたんですけど、伝説よりも真相のほうが悪かったんですよ。

翔 ハハハハハハ! めちゃくちゃだったからね。

―膨らましたのかと思ったら小さくしているぐらいで(笑)。当時の本だと、嶋さんがトイレで隠れてタバコ吸ってるのを大坂さんが発見して「事務所に来い」って言ったみたいな話だったのが、銀蝿のチケットをゲームセンターか何かで大量に渡されて、それでみんなで行って、みんなで堂々と「禁煙」って書いてある前でタバコを吸ってたら警備員と揉み合いになり、警察に補導されて、大坂さんが引き取りに来てスカウトされたって話でした。

翔 ゲームセンターって、ペットショップの脇にあるゲームコーナーなんだけどね。そこでパーティーみたいに「チケット買えよ」って言って。当時はそんなこと言えないじゃん。嵐さんは常にそこの真ん中にいていろいろやってたと思うけどね。俺は大輔が来た、哲太が来た、紅麗威甦が始まった、岩井小百合ちゃんがいるっていうのも、「入りました」って事後報告からだから学校の後輩みたいな感じ。俺は銀蝿のことしかやってないからさ。

―そのへんのことを翔さんに聞いても、「たぶんそれ嵐さんしか知らない」って言われることが多くて。

翔 そうそう。特に俺は銀蝿のことばっかになってるから、他のこと考えたり、そこのコミュニケーションもあんまり取れてなかったですよね。楽曲に関しては、合いそうな曲を出してくれって言われて紅麗威甦とか大輔とか矢吹薫とか麗灑にも作ってましたけど、あとはどういうふうにやっていくかは俺はノータッチだしね。

―嶋大輔さんが事務所を辞めた理由も翔さんは知らなかったですもんね。

翔 知らない知らない。銀蝿一家ではあるけどみんなそれぞれ巣立っていくんだろうとは思ってたから、俺はぜんぜん知らないの。

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