『あんときのRADWIMPS』著者が語る、震災とメンバー活動休止期のRADWIMPS



田家:シングルは2011年1月に発売になって、『アルトコロニーの定理』の中の『オーダーメイド』以来のシングルチャート1位になりました。渡辺さんはこの曲について第二章「とてつもない設計図」の中で、“『DADA』で出てきた新しい洋次郎”、“RADWIMPSの新しい発明だと思った”とお書きになっている。

渡辺:はい。『アルトコロニーの定理』でバンドを諦めないって言って、ある種諦めざるをえないような結果になってしまって。じゃあ次どうすればいいんだということで、初めてきちんとしたデモテープを洋次郎が作るようになって、スタートするのが『絶体絶命』なんです。そのデモテープっていう、ある程度設計図をプレゼンテーションしながらやっていくという意味で、メンバーの負担を軽くするというやさしさだったと思うんですけど、その中で『DADA』はなんだこれはとしか思わなかったものですから(笑)。

田家:なんだこれは、ですか(笑)。

渡辺:これなに?みたいな。歌詞といい、サウンドもそうですけどいつも声が変わるんですよね。曲によってすごくやさしい女性のような声とかね。

田家:儚い声とかね。

渡辺:ええ。ファルセットと地声の中間のような声を出したり。ちょっとエスニックな感じの声、メロディもそうですけど。このレコーディングの前に雑誌の取材でインドに行ったものですから、そういう影響もあるのかなとか思ったりしましたね。

田家:そういうのが作品にすぐ反映されている。そういう曲の後に発売されるのが『狭心症』。この曲について渡辺さんは第三章「極みへ」の中で“その声は世の中を引き裂くように響いた”とお書きになっています。



渡辺:世の中に過剰なものを投げつけたいと、この頃洋次郎が言っていて。とにかく過剰なものを、これでもかって投げつけるアルバムが『絶体絶命』なんだという。

田家:ミュージック映像もすごかったですもんね。ああいう刺激的というか、なかなか誰もが踏み込まないようなところまで踏み込みたかった。

渡辺:そうですそうです。しかも『狭心症』は、ずっとこのテンポじゃないですか。4分音符をずっと続ける力量というか、本にも書いてあるんですけど、ずっと我慢して我慢して、とうとう拳をあげてしまったというのをバンドで表現している。見事に表現されているから、すごいバンドになったなと思いましたけどね。

田家:緊張感を保ちながらね。

渡辺:ええ。ドラムもベースもギターもここまで一心不乱に突き進んでいくというのは。

田家:このアルバム『絶体絶命』について、“僕はなぜ一人で立ち向かおうとしたのか”という小見出しもありましたね。僕はというのは渡辺さんのことでしょう?

渡辺:そうですね。『RADWIMPS 4 ~おかずのごはん~』の時から、これが最後のアルバムになるんだろうなと思っていたんですよね。それでもバンドを諦めないために『アルトコロニーの定理』を作るって言って、バンド諦めなきゃいけなくなって、これで今度こそもう最後なのだろうと思って。

田家:最後というのは渡辺さんにとってではなくて?

渡辺:RADWIMPSにとって、最後のアルバムになるんじゃないかと思いました。『絶体絶命』なんて言ってるから余計。それまでは西崎って一緒に手伝ってくれるスタッフもいたんですけど、異動になっちゃったんで、最後にこれは僕一人で送り出そうと思って。初めてデモテープが作られたこともあって、どこかで洋次郎が一人で作ったアルバムだって僕は思ったんですよね。後に四人でレコーディングしてRADWIMPSに展開していくんですけど。ただ最後のコアっていうのは、彼が一人でデモテープとして作ったものなので、僕も一人で全部受け止めようって思っちゃったんです。今だったら絶対やらないですけど。

田家:バンドメンバーの一人みたいなものでしょうね。『絶体絶命』というタイトル自体が、そういう意味では決してハッピーなタイトルじゃないわけですし。

渡辺:はい。後に『絶体絶命』を部首で分割すると、糸と色になるというのも、後に出てくると思うんですけど、震災のこともあったので一番忘れられないというか、本当にこれで最後のアルバムになるのか? っていうのはずっと通奏低音みたいにありましたね。レコーディング中から。

田家:なんでしょうね。俺がやらなきゃいけないというか。

渡辺:アルバムが持つエネルギーの渦に飲み込まれていたんじゃないかなとは思ったりしますね。あとこれを作ってきたメンバーのエネルギーに同化はしないんだけど、共振しておかしなことになってましたね(笑)。

田家:彼らと同じテンションになっていったみたいな感じもある。発売された後に打ち上げがあって、これが3月10日で朝まで続いた。つまり、3月11日ってことでしょう?

渡辺:そうなんですよね。

田家:『絶体絶命』発売記念打ち上げの話の後から第九章が始まるのですが、タイトルが「3月11日」。その話はこの曲の後にお聞きしようと思います。

Rolling Stone Japan 編集部

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