SNARE COVERが語る「永遠」、喪失を経験して初めて分かるラブソング

─僕は10歳から25歳くらいまで保護猫と一緒に暮らしていて、その猫は最期は寿命で亡くなったんです。「Hourglass」の出だしで、「ほろ苦く香る部屋 あなたが飲み残してったコーヒー」という歌詞がありますけど、今になるとよく分かるなって。飲み残したコーヒーとか、食べかけの食事とか、使っていた枕とか、そういう物って写真よりもその人を感じるんですよね。僕の場合は、亡くなった猫の爪とぎはもう必要ないから捨ててもいいんだけど、でもその爪とぎの跡を見ると、その子を感じるっていうか。そういう意味でも、この曲と自分がリンクしました。

あぁ……結構きますね。爪とぎとか分かりますね。捨てられないんですよね。着させていた服とか、自分の洋服にもその子の毛が残ってたりとか。

─そうそう。コーヒーとかハンバーグの歌詞も出てきますけど、その人がいたっていう事実と、自分がその人といたっていう証はずっと残るわけで。それは幸せなことでもあるし、残酷なことでもあって。まさに喪失感と希望を感じましたね。

本当にそうですね。

─だから斎藤さんの書くラブソングというのは、惚れた腫れたのラブソングじゃなくて、男女だけのラブソングでもなくて、命あるものを想うラブソングだなって。

素敵な言葉でまとめてくださって、ありがとうございます。いや、まさにそうですね。どっちも悲しい曲なので、みんなが幸せな感覚になるようなラブソングではないというか、そういう曲は僕には到底難しいです。なかなか深く入っていけないというか。やっぱり喪失感、悲しみ、そういう大事に思っていても戻らないもの。もう手に入らないというか、戻ってこないものを思うこと自体が、すごく大きなテーマになっていますね。でも若い頃の自分だと、そこには到達できなかったです。この先、自分はどうなってくんだろう?っていう不安が、今思えばなかった。だけど40歳になって、なんでこんな不安に感じるんだろう?って考えるんです。自分に残されてる時間もあんまりないのかな、と思うようになってくる。まだまだ先はあるかもしれないし、分からないですけどね(苦笑)。例えば寝入りばなという、ふわって気持ちよくなって眠りに落ちそうになる瞬間に、ふと最近よく考えるっていうか、なんか浮かんでくるんですよ。「あ、俺っていつか死ぬんだ」って。で、自分の家族がいるじゃないですか? 奥さんとか子供とかいて「あ、この瞬間に亡くなるのか?」という思いが勝手に浮かんでくるんです。

─一歩一歩死が近づいている感覚ですね。

そうなんですよ。最近はそうさせないように、眠る瞬間に何度も起きちゃうんです。だから眠りにつきづらいんですよね。終わりが恐ろしくなってきてるんです。音楽をやる上でも、そこは伝えられる部分だなっていうのあります。「そういうことって絶望だよね」という歌ではなく、それぐらい考えて生きていること。もう亡くなってしまった会えない人に対して、永遠にその存在を生き続けさせるっていうのは、その喪失とか悲しみの中から来るものっていうか、それは執着心に近いんじゃないか?という感覚に陥るんですよね。

─ちなみに「Hourglass」と「Wedding Bell」は、どの辺りが続編になっているんですか?

ストーリー自体はそこまで繋がっているわけではないんですけど、同じ人物ではないというか。共通点はどちらも喪失を描いているんです。「Hourglass」の方は大切な恋人だったりとか、そういう大事な人との別れを描いた先に、主人公が「あの人との瞬間は宝物だった」と気づく歌なんですね。「Wedding Bell」は、大事な人が亡くなってしまう話として描いてるんです。その人を永遠に自分の中で生き続けさせるための答え合わせ、みたいな。別れが納得できない、受け入れられない自分。その中でも希望があるとしたら、どういうことなんだろう?という答え合わせの曲が「Wedding Bell」なんです。分かりやすく結婚の描写を入れたのは、お互いの絆の深さみたいなものは、恋人同士より強く表現できるかなと思ってそうしましたね。

─楽曲を聴いて最初に思ったのは、サウンド自体も「Hourglass」より「Wedding Bell」の方が辛辣さやシリアスさが強い感じがしたんすよね。

確かに確かに。ちょっとドライな感覚で始まっていますしね。

─歌詞はもちろん、音的にもストーリー性をすごく意識なさっているんだろうなって。

そこはかなり気を使いましたね。ボーカルも何度か録り直していて、もう少し入りを有機的じゃなくて、少し無機質な感覚が入っていた方が曲としては伝えられるだろうと。徐々に感情的になっていく感覚を出すために、録り直しましたね。

──編曲家のTAARさんとは、どんなやり取りをされましたか?

曲自体は自分が全部作りましたが、音選びやアレンジは全てお任せしたので「この音をこうしてほしい」みたいな細かいオーダーはせず、ある程度のイメージを伝えた感じですね。ちなみに、TAARさんがXでも呟いていたんですけど、たまたまこの曲の編曲依頼をしたのが、(TAARさんが)婚約したタイミングだったらしくて。奇跡を感じたと言ってくださいましたね。MVで言うと白米さんのドローイングも素晴らしかったですし、本当に皆さんのお力は大きいですね。

Rolling Stone Japan 編集部

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