米ハーバード大学に献体された遺体、関係者が人体収集家に密売


マイケル・ピッツィさん(COURTESY OF THE FAMILY)

ジャネット・ピッツィさんは叔父のマイケルさんの優しさを今も覚えている。マイケルさんは言葉が不自由な近所の子どもと仲良くなり、クラリネットという共通の趣味を通じて友情を育んだ。その子は死期を迎えたマイケルさんのためにクラリネットを演奏した。「叔父は本当に面白い人で、才能にあふれていました」。90代まで不動産業に携わったマイケルさんについて、ジャネットさんはこう語った。「人に寄り添うことができる人でした。私が知る限り、誰よりも仕事熱心だったと思います」。

こうしたことをふまえると、今回の事件はなおさら衝撃的だ。かの名門大学で起きた事件――しかも顧客と見られる人々は、身の毛もよだつ密かな楽しみとやらで遺体の一部を購入し、金もうけをしていたのだから。マイアミ大学で細胞生物学を教えるトーマス・H・チャンプニー博士いわく、この手の違法売買は献体を自前で用意できない医大やプログラムで行われるのが常だという。だが今回の事件では、ドナーは献体プログラムへの参加を希望していたにもかかわらず、遺体は医療関係者以外の手に渡っていた。「ハーバード大学を介して数奇コレクターの手に渡っていたのは、ある意味で最悪のパターンです。遺体組織を所有あるいは獲得するためなら、道理などわきまえない人たちですから」。

マーシュ教授も同意見だ。「こういった遺体売買ネットワークがあると聞いても、さして驚きませんでした。ただ、ハーバード大学の遺体だったと聞いた時は少しばかり驚きましたが」。

ハーバード大学はコメント取材を辞退し、代わりにwebサイトに掲載された声明を照会した。そこにはロッジが解雇されたこと、大学側はロッジの行為を知らなかったと書かれていた。

権威ある遺体安置所の管理人から盗人となり下がったロッジの知人にとってもショックだった。隣人のアラン・パーマーさんの話では、ロッジはニューハンプシャー州マンチェスター界隈で「ハロウィンになると少しタガが外れる」人間として知られていた。だが改めて振り返ると、ロッジの生活には細かい点で奇妙なところがあった。ロッジのFacebookのプロフィール画像はジャック・オー・ランタンだったし、一家の車のナンバープレートは「Grim-R[訳注:grimmer=もっと残忍に]」という文字が当てられていた。不動産データベースZillowには、パーマーさんの隣に越してくる以前、2020年に売却した家の写真が掲載されているが、家の中には白と紫に塗られたビクトリア朝のガーゴイルの石像と複数の冷蔵庫が映っていた――冷蔵庫は寝室にも1台置かれていた。

だがロッジの知人は、変わり者だったがどちらかというと普通の人間だった、という意見が大半だった。「大人しかったですよ。学校では似たようなタイプの連中とつるんでました。SFとかにものすごく入れ込んでました」と言うのは高校時代の同級生ケヴィン・ギャラウェイさんだ。「彼にダークサイドとかそういうところがあったかと言われれば、全く見受けられませんでしたよ」。

隣人のパーマーさんも同じ意見だ。「大勢のジャーナリストやニュース媒体が、『この男は夜な夜な地下室でチェーンソーを振り回していた』というような話を聞きたがっていますが、そんなことはありませんでした」。

だが、遺体安置所の職員がこうした行為で捕まった例はロッジだけではない――遺体窃盗ネットワークはハーバードだけに留まらなかった。アーカンソー州リトルロックの霊安所に勤務していたキャンデイス・チャップマン・スコットも関与したと見られている(彼女もまた無罪を主張している)。スコットが勤務していた霊安所はアーカンソー大学医学部と提携し、献体プログラムの遺体を葬儀場の遺体とともに火葬していた。起訴状によると、スコットは献体プログラムから遺体を盗んでいたらしい――医学部に新たな遺体が運ばれた時期と、彼女がジェレミー・ポーリーという猟奇コレクターに売買していた時期がぴったり重なる――もっとも、医学部は献体プログラムの遺体が絡んでいたことはないと否定している。事件以来、大学側はスコットの勤務先との契約を終了した。スコットの弁護人は、彼女が精神鑑定後にアーカンソーの刑務所に服役していることを認め、現在は「鑑定の結果待ち」だと述べた。

起訴状には、ロッジとスコットが直接共謀していたとは書かれていない。2つの闇取引を結ぶ糸とみられるのがポーリーだ。彼はスコットが盗んだ遺体の一部をコレクターに売買していたが、その中にはロッジの「顧客」も含まれていた。


広大な遺体窃盗の中心人物とみられるジェレミー・ポーリー(EAST PENNSBORO TOWNSHIP POLICE DEPARTMENT)

Akiko Kato

RECOMMENDEDおすすめの記事


RELATED関連する記事

MOST VIEWED人気の記事

Current ISSUE