米ハーバード大学に献体された遺体、関係者が人体収集家に密売

サラさんが地下室の階段を下りてから約1年。ロッジ夫妻、タイラー、マクリーンは2023年6月13日に共謀罪および州をまたいだ盗品運搬罪で起訴された。翌日にはポーリーが別件で起訴された。スコットは数か月前の4月に起訴されている。司法省によると、ポーリーは2023年9月に司法取引に応じ、「盗まれたと承知の上で複数の人間から遺体を購入し、複数の人間(そのうち少なくとも1人は遺体が盗まれていた事実を周知していた)に売却した」件で有罪を認めた。求刑は最長懲役15年。スコットは2024年3月に裁判を控えている。ノットは答弁内容を変更し、2023年11月に有罪を認めた。

再発防止に向けたハーバード医学大学院献体プログラムの検証報告書は、すでに2度公表が延期された。公表時期については分かっていない。

遺族はというと、愛する者たちが「物品」として物々交換や売却される以前の姿を記憶にとどめ、世間にもその姿を知ってもらいたいと望んでいる。ニュースの後で多くの遺族が法的手段に訴え、ハーバード大学や関係者を訴えたのもそれが理由だ。亡くなった父親、母親、祖父母の思い出が消えてしまわないように。


ドリーン・ゴードンさん(Doreen Gordon COURTESY OF THE FAMILY)

エイミーとジェニーさんは、母親のドリーン・ゴードンさんが作ったマカロンの味を覚えている。お菓子作りが好きなドリーンさんは、ご近所から「クッキーレディ」と呼ばれていた。ドリーンさんは家族旅行も大好きで、ミュージアムを訪れるたびに聖セバスチャンの像を探した。聖セバスチャンは清らかな死を迎えたいと願う者の守護神で、いかにも科学のために身を捧げた女性らしい。

愛する者について遺族が語る話には共通点がある。古き良き時代、食卓に並ぶ食事など、ふんわり心が和む思い出だ。父親が毎週日曜日に豪勢なディナーをふるまったというのはポーラ・ペルトノヴィッチさんだけではない。ジャネット・ピッツィさんも、叔父のマイケルさんが父親と一緒にディナーをふるまってくれたのを覚えている。2人は90代までともに不動産業に携わった。

秘伝のレシピを覚えている遺族も少なからずいた。ハーバード大卒の小児科医ウィリアム・R・ブキャナンさんはキャロットケーキの名人だったが、孫のリリー・パシェキングさんとエレン・ワイズさんは、子ども特有の野菜嫌いで食べようとしなかった(代わりにウィリアムさんは、クリームチーズのアイシングをボウルいっぱいに作ってくれた)。エイミーさんとジェニーさんは、母親のドリーン・ゴードンさんが次々焼き上げるマカロンをほおばった時のことを思い出す。マカロン以外にもお菓子作りが好きだったドリーンさんは、ご近所から「クッキーレディ」と呼ばれていた。クッキーは「母にとって周囲の人々と知り合う手段であり、皆さんのことも存じ上げていますよと伝える手段だったんです」とエイミーさんは振り返る。「おかげで母はみんなと顔見知りになれたと思います。みんなも母と顔見知りになれました」。ロビン・ダポリートさんとニコール・マクタガートさんも、母親は豚チャーハンが得意だったと語った。


フランク・リョーダンさん(COURTESY OF THE FAMILY)

キャシー・リョーダンさんいわく、ローリングストーン誌に名前が載ると知ったら、父親のフランクさんは気絶しただろうと語った。ミュージシャンだった父親はしょっちゅう歌い、介護施設に入ってからも歌を欠かさなかった。「父はありふれた、善良な人でした」とキャシーさん。父親の最期については、「父は何か大きなことを残したいと考えていました。生前は大したことができなかったから、と。少なくとも本人はそう感じていました」。

キャシー・リョーダンさんの父親フランクさんがハーバード大学に献体したのは、人生で何か大きなことをして人々の記憶に残りたいと思ったからだ。ミュージシャンだったフランクさんは60代まで毎晩カラオケイベントを開き、介護施設に入ってからも歌を欠かさなかった。

それから、アンバー・ハグストロムさんの母親ドナ・プラットさん。ドラッグレースカーの熱狂的ファンで、通称「ミス・パイロ」と呼ばれていた。「母の遺灰を受け取った時、母が戻って来てくれてすごく嬉しかった」とハグストロムさんは言い、毎朝遺灰に語り掛けていたと付け加えた。「(ハーバードの事件以来)灰を見る目が変わりました。あの時の絆も失われているような気がします」。


ドナ・プラットさん(COURTESY OF THE FAMILY)

アンバー・ハグストロムさんの母親ドナ・プラットさんはスリルを追い求めるタイプだった。ドラッグレースや花火の熱狂的なファンで、「ミス・パイロ」と呼ばれていた。「母の遺灰を受け取った時、母が戻って来てくれてすごく嬉しかった」とハグストロムさんは言い、毎朝遺灰に語り掛けていたと付け加えた。「(ハーバードの事件以来)灰を見る目が変わりました。あの時の絆も失われているような気がします」。

もうひとつ遺族に共通していることがある。愛する者の死後に起きた出来事のせいで、思い出が汚されてしまった点だ。そして今、遺族たちは必死の思いで故人の思い出にすがっている。

8月の曇り空の午後、アデル・マッツォーネさんの娘ダポリートさんとマクタガートさんと花柄のテーブルクロスを囲んだ。姉妹ははかない母親の人生をつなぎ合わせていた。「ハーバードの名声や評判が失われたことを知ったら、きっと母はとてもがっかりするでしょうね」とダポリートさんはため息交じりに言い、孫のブリアナさんと灰色の海の前に立つ母親の写真に目を向けた。

「『The Dash』という詩をご存じですか?」とダポリートさんが尋ねた。現在59歳のダポリートさんは異父姉妹のマクタガートさんとは10年以上も歳が離れているが、ていねいにスタイリングされたブロンドの髪とまぶしい笑顔のおかげで同世代に見える。「人には生年月日と死亡年月日がありますよね――でもその間にあるのは? ダッシュです」。マッツォーネさんのダッシュはテーブルの上に広げられていた。若くして他界した兄や息子の悲劇をつづった手記、楽しかった時期のひとこま、頬を赤く染めた青春時代のモノクロ写真、そしてごく最近撮影された休暇のカラー写真。

「何度も何度も、頭の中で再現しなくちゃいけないんです。母の頭部が切断されるのを思い描きながら。彼らは母の遺体に何をしたんでしょう? なぜ母を助けてあげられなかったんでしょう」と言うダポリートさんの目は涙に濡れていた。甥の誕生日からそのままになっている銀色の風船が暖炉のそばで揺れるのを、心ここにあらずといった風に眺めた。「悪い人間ならこういう仕打ちを受けて当然だというわけじゃありません。でも母は違う。母のダッシュは純粋に、善と慈しみだけでした」。

追記――記事掲載から3日後の2023年12月8日、待望の独立機関によるハーバード医学大学院献体プログラム報告書が公表された。報告書には通常の運営手順の改訂、ドナー同意ポリシーの定期的な検証、プライバシーおよび警護対策の抜本的見直し、職員研修の強化提案など、プログラムの今後の改善勧告が盛り込まれている。また「ハーバード医学大学院医療教育部のバーナード・チャン学部長が議長を務めるタスクフォースを設立し、早急かつ慎重に報告書委員会の勧告を検証し、実施計画を策定する」とある。加えて遺族には、進捗状況を伝える12月7日付の書簡で報告書の内容が通知された。

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from Rolling Stone US

Akiko Kato

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