米ハーバード大学に献体された遺体、関係者が人体収集家に密売

メインとなる起訴状に名前が挙がっているのはポーリーの「顧客」だけではない。このネットワークは見かけ以上に壮大だった。

ポーリーにはケンタッキー州にジェームズ・ノットというネット仲間がいた。ポーリーとやりとりしていたFacebookメッセージでは、悪趣味にもウィリアム・バークを名乗っていた――1800年代に実在した殺人鬼で、自ら手にかけた被害者の遺体をスコットランド人の解剖学者ロバート・ノックスに解剖実習用として売っていた人物だ。

2023年7月、ノットはFBIに尻尾を掴まれた。ポーリーが物色していた骨の件でFacebookでやり取りしていたのが特別捜査官の目に留まったためだ。FBIがノットの自宅を家宅捜索したところ、武器一式が押収されたが、逮捕理由は前科者による火器所持のみだった。自宅はホラー映画さながらで、数十個の頭蓋骨や脊椎、骨盤で装飾されていた――だが、遺体の売買が禁じられているごく一部の州では売買していなかった。本人も力説しているように、違法なことは何もしていなかった。

オールドハム郡刑務所から携帯メッセージで取材に答えたノットは、ハーバード大学の遺体安置所から盗まれた遺体を受け取ったことはないと主張し、必死にロッジとは距離を置こうとした――だが実際は、ロッジの逮捕後にハーバード大学からノットの私物が発見されている。ノットは自分が収集していたのは骨だけで、臓器や人体の一部ではないとも力説した。だからといって、ノットの逮捕の知らせを聞いた遺族が受けた恐怖を軽減することにはならない。


ウィリアム・R・ブキャナンさん(COURTESY OF THE FAMILY)

リリーさんとエレンさんの祖父ウィリアムさんはハーバード大卒の小児科医で、子どもに対してとくに深い思い入れがあった。「小学校4年生の頃からひどくいじめられていたんですが、おじいちゃんは私の味方でした」とエレンさん。「何年もずっと週1で電話をかけてくれました」 ウィリアムさんが作るキャロットケーキは有名だったが、幼い孫娘たちは食べたがらなかった。そんな孫娘のために、ウィリアムさんは代わりにクリームチーズのアイシングをボウルいっぱいこしらえた。

この数カ月、遺族の方々と取材をしていると、ひとつの疑問がたびたび持ち上がった――この記事をまとめている間、筆者も何度となくぶつかった疑問だ。なぜ? 遺体の処理を託された人々は、なぜキャリアを棒に振るようなことをしたのか? なぜ信頼を裏切ったのか? 一体なぜ、おぞましい趣味や金目当てで、わざわざこんな痛みを引き起こしたのか?

セドリック・ロッジに関しては、4月に公判が始まるまで答えは見つからないだろう。他の被告も誰一人、現在進行中の捜査や裁判を理由に口を開こうとしない。ランピの弁護人は事件に関してノーコメントだ――もっとも、39年の弁護士人生でこんな状況にお目にかかったことはないとは言っていたが。マクリーンの弁護人にもコメント取材を申請したが、返答は得られなかった。

だが少なくともノットだけは、自分の収集癖は死者を蔑ろにするのではなく、むしろ敬うものだと主張している。本人いわく、友人が自殺したのをきっかけに「死者の友」を集め始めたという。「自分が集めていたものはすべてアンティークの家具に保管し、周りにはバラや花を手向けていた。また生きているかのように、それぞれ名前をつけていた」と携帯メールには書かれていた。囚人仲間からは「ボーンマン」と呼ばれているそうだ。

背筋も凍る一連の事件の首謀者と見られるジェレミー・ポーリーに関しては、金目当てだったというのが離婚調停中の妻サラさんの意見だ。だが現在も稼働中のポーリーのwebサイトには、半分闇に隠れた黒いスーツに身を包んだ男の写真で飾られている。「間違いなく、彼には善悪の概念が欠けていました……きっと彼なら『どうせ殺人の被害者だろ』と言ったでしょうね。(遺体の)事情を知ったとしても、よくある話だぐらいにしか思わなかったでしょう」。

Akiko Kato

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