米ハーバード大学に献体された遺体、関係者が人体収集家に密売

2022年7月、サラ・ポーリーさんが夫ジェレミーの占領していた地下室の一角に足を踏み入れなければ、ゆがんだ活動は今も続いていたかもしれない。

取材に応じながら、サラさんは青い瞳を細めた。「『とにかくあそこには近づくんじゃねえ。お前のたわごとなんか聞きたかねえんだよ、ビッチ』と言われました」とサラさん。「それから『あっち側には近づくな。お前には関係ねえ。お前のものはない』とも」。

当時まだ21歳だったサラさんは、ペンシルベニアの電子タバコ店で当時35歳のジェレミーに一目ぼれし、付き合い始めた。ジェレミーが人体の一部を収集していることはサラさんも知っていて、なんとなくカッコいいと思っていた。骨やホルマリン漬けの標本の写真も見せてもらった。「こういうものを所有できるなんて知りませんでした」とサラさんは言う。

だが、夫婦関係はすぐに破綻した。サラさんの話によれば、ジェレミーは暴力的で、2021年6月に初めて別れを決意した――が、結婚生活をやり直そうとよりを戻した。家に戻ったものの、ジェレミーはサラさんが浮気していると思い込み、お前を切り刻んでやると脅したそうだ(ジェレミーが家庭内暴力で起訴されたことは一度もない。本人も弁護人を通じて、そうした脅しをしたことは一度もないと述べた)。サラさんは虐待を理由に一時的な接近禁止命令を申請し、ジェレミーは2022年6月に家から退去させられた。そこからいよいよ、地下室に降りて行った日を迎える。


離婚調停中の夫が占領していた地下室の一角で、サラ・ポーリーさんが見つけたという遺体の一部

そこには空になった標本のビンや、得体のしれぬ液体でいっぱいになったタッパーウェア、液体まみれになったHome Depotのバケツがあり、それらすべてを見守るかのように、色褪せたイエス・キリストの写真が積み重ねられた箱の上に立てかけてあった。

「バケツのふたを開けると、これまでの合法的なのとは違うことがすぐにわかりました」とサラさん。これまでジェレミーが集めていた標本は年代もので、出所が書かれたラベルを張ったビンに保存されていた。だが今度は、バケツの中はドロドロの臓器でいっぱいだった。

結局地下室を出たサラさんは警察に通報し、地下室で見つけたものをすべて警察に渡した。退去の際にジェレミーが置いて行ったノートパソコンも押収された。そこで警察は――のちにFBIも――ジェレミーが全米にまたがる大胆不敵な窃盗ネットワークの中心で遺体の一部を売買していたと思しき証拠を見つけた。

起訴状によると、ジェレミー・ポーリーはFacebookの数奇コレクターグループを通じて、アーカンソー州の霊安所で働いていたスコットとつながった。2021年10月、スコットはジェレミーに「完全無傷な、腐敗防止処理をした脳みそを欲しがっている人を知らない?」とメッセージを送っている。

結局ジェレミーはスコットから脳みそ2つと心臓1つを購入し、PayPalで1200ドルを送金した。

こうしたやり取りで、スコットはポーリーに臓器や性器の他、胎児もたびたび売りつけた。遺体安置所の職員以外に、ポーリーは他のコレクターともビジネスをしていた。起訴状によると、不気味な人形の店を営んでいたマクリーンはポーリーに手を貸し、人間の皮膚をレザーのように加工してやった。サラさんいわく、ポーリーはそれを使って本の装丁や財布を作っていたという。

身も凍るような話を聞くだけで胃がむかむかしてくる。そうした細かい点に気を取られ、つい実際の被害者や悲嘆に暮れる遺族のことを忘れがちだが、被害者1人1人に語るべき物語がある――彼らのことを思うと胸が張り裂ける思いだ。ラックスと名付けられた死産の子どもは、スコットからポーリーに300ドルで売られた後、ポーリーからミネソタ州のマシュー・ランピというタトゥーアーティストの手に渡り(同じく起訴状に被告として名を連ね、無罪を主張)、頭蓋骨5つと1550ドルで交換された。不幸にもスコットが勤務していた霊安所と業務提携していた葬儀店は、子どもの遺体がなくなった後、誰のものともわからぬ灰が入った骨壺を母親に手渡した。

これらをふまえ、検察は長年におよぶ残酷な計画で数万ドルが複数の人間の手に渡っていたと考えている。起訴状によれば、ポーリーとテイラーが送金した額は4万ドルを超える。ランピからポーリーには8000ドル以上、ポーリーからランピには10万ドル以上が送金されていた。サラさんの推測では、元夫は総額20万ドル稼いでいたとみられる。

Akiko Kato

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