なとりロングインタビュー 海外も魅了する若きヒットメーカーの素顔

弱いやつの味方になる曲を作りたい

ー「金木犀」の歌詞にもなとりさんの芯が表れていると思っていて。特に“寄る方なく、痛みは寄り添っている”という一行。「痛みに寄り添う」というのはなとりさんの音楽全体に通ずるものだと思うんですけど、そういった表現が出てくる背景にはなにがあるのだと思いますか。

なとり:多分、ボカロの世界観。僕もボカロを聴いていた時期は、自分をわざと苦しめたりあえて窮屈に生きて感傷に浸ったりすることが、めちゃくちゃ好きだったんですよ。だから多分、自分の曲で感傷に浸りたい、みたいなことを思いながら作っているんですけど。学生時代は陰キャというかものすごく根暗なやつだったので、根暗なやつらにかっこつけてもらえる曲や根暗なやつの味方になれる曲を作りたくて。それこそ、自分の曲を聴いて感傷に浸ってほしいなと思いながら作っていると思います。僕がそれに救われてきたので、救ってくれた人みたいになりたいという気持ちがありますね。

ーなとりさんにとってのそういう音楽がキタニタツヤさんだった?

なとり:ああ、マジでそうですね。今でも感傷に浸って聴くときがあるので。やっぱりあの人の影響はすごいなと思います。

ーもう一歩だけ掘って聞いちゃうと、根暗な性格や自己嫌悪の背景にはなにがあったのか、自己分析できていたりしますか。

なとり:多分、根暗な部分を形作っているのは母親とか父親の影響で。普通の家庭に比べてものすごく制限が多かったんですよ。些細な部分で人と違って、変に自信をなくした時期があって。でもそれ抜きにしても、もともとあまり自信を持てない性格だったので。あとはなんだろうな……ボカロにその弱みにつけ込まれちゃったので、そう生きるしかなかったなって(笑)。

ーでもその経験と心があるからこそ、こういった空気感の音楽を作れるということですよね。同じような人たちっていっぱいいるから。普段は明るい顔をしていても、実際は痛みを抱えていたり自信がなかったり。

なとり:めちゃくちゃいると思います。今の時代、特に。そういう人のための曲を今後も作っていきたいなと思います。



ー「時代感」みたいなものを、なとりさんはどう感じ取っているんですか。

なとり:SNSの面白いものや数字がついているものって、絶対に否定的なものがあると思っていて。そこで「なにやっても否定されるじゃん」っていう感じが染みついちゃってるのかなと思って。

ーアーティストに限らず一般人のポストとかでも、「なにやっても否定される感」はありますよね。しかも否定的な反応が多かったり、そもそもなにかを否定していたりするコンテンツが、どんどん盛り上がってアルゴリズムに乗って回っていく。

なとり:めっちゃありますね。とにかく、弱いやつの味方な曲になれればいいなと思ってます。

ー弱いやつの味方なんだけど、曲全体の装いはそうじゃないんですよね。それがなとりさんの音楽の新しさなんじゃないかと思いました。

なとり:ああ、僕の出方でおしゃれな曲を作ってる人があまりいない、みたいなことはいろんな人によく言ってもらえますね。そこは新しいジャンルを切り開いたのかなって。結果論ですけど、そう思います。でも僕って、全部がおしゃれではないんですよね。だから陰キャの入口としてもいいものを作れたのかなと思います。

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