なとりロングインタビュー 海外も魅了する若きヒットメーカーの素顔

「Overdose」ヒットの裏側

ー2021年5月に初めてTikTokに投稿して、そこから1年間、結構な本数を上げてから「Overdose」がバズった、という流れですよね。「ぱっと出したら反響があった」ではなく、積み重ねてきてのヒットだった。2021年5月から「Overdose」を出すまでの1年間は、どんなことを考えながら過ごしていたんですか。

なとり:当時は仕事をしていて、そのときの上司がめちゃくちゃ嫌いだったんですよ。今思えば、仕事ができない僕にちゃんと教えてくれたり怒ってくれたりしてくれていたのかなって思うんですけど。その人への悪口とかを曲に投影したり、とにかくいろんなことが上手くいかなかったので、聴いてくれているみんなにはバレないように、恨み辛みを音や歌詞で表現したりしていて。とにかくしんどかったですね。しんどかったけど、曲を作るのはすごく楽しくて。その期間にいろんな曲も作れたし、なとりのファンの母数が増えていっていたので、頑張ってよかったなと思う1年でした。とにかくその人が嫌いで、曲を作って早く売れようという気持ちはありました。

ーその1年間で曲作りとファンの基盤を少しずつ築いていたからこそ、「Overdose」のヒットがあったし、バズのあともこうして活動を続けられていることを実感していると。当時は、早く売れたいという気持ちだったんですね。

なとり:最初は「何年かやっていくうちに、ちゃんと音楽でやれればいいな」と思ってやっていたんですけど、ずっと仕事してる中で「やっぱり音楽をしたいな」という気持ちが増えていって、音楽をするためには売れなきゃいけないっていう。それで「売れたいなあ」と思ってました。



ーいただいた資料のセルフライナーノーツに、「Overdose」は「想像以上の反響があって、逆に自信を失くしたくらいだった」って書いてありますよね。当時はどういう心境だったんですか。

なとり:めっちゃ自信なくしましたね、本当に。もうマジでやばかったですね。ちょうどTikTokの再生数とかが落ちてきたときだったんですよ。それでTikTokを一番使っている層に使ってもらえる曲を作ろうと思って「Overdose」を作ったんです。それが思いのほか、反響がでかくて。それこそ僕が音楽とか関係なしに「こいつかっこいいな」「この子かわいいな」と思って見ていた人たちが踊ってくれていたので、最初はめちゃくちゃ怖かったし、いざリリースしてからも、何百万という数字が重なっていく瞬間がめちゃくちゃ怖かったです。

ー「嬉しい」とかより、一番大きい感情は「怖い」なんですね。

なとり:めっちゃ怖かったです。下積みも短いので僕の好きなアーティストは僕のことをどう思ってるんだろうとか思ったし、もしかしたら顔バレしてるんじゃないのかなとか思って歩くのが怖かった時期もありました。

ー「Overdose」の再生回数が回っていく中で、そこに実力がともなっているのか、いってしまえばただのラッキーパンチだったのか、自分でもわかってない感覚があった?

なとり:そうですね。正直、今もわかってないんですけど。ラッキーパンチだったなとは思っているんですけど、そのラッキーパンチで掴んだ人たちを囲って逃がさないためになにができるのかを今もずっと悩んでいるかもしれないです。

ー「Overdose」はトップインフルエンサーたちが使いたくなる曲について考え、狙って作ったところが大きかったんですね。

なとり:めちゃくちゃ狙ってました。当時のトレンドを自分なりに分析して、とにかく全部ノセみたいなことを意識して作りましたね。


※Spotify Blend:ユーザー間(最大10名まで)でそれぞれのリスニング傾向をかけあわせ、パーソナライズされたプレイリストを作成する機能。データは2023年12月中旬時点のもの

ートレンド分析はどのようにやっていたんですか。

なとり:TikTokのサブアカを作るんですよ。見るだけのアカウントで、検索履歴とかアルゴリズムに縛られないような見方をして。そこで「やっぱりこういう曲が流行ってるんだ」って調べたり。「なとり」のアカウントでは音楽の人をめっちゃ見るんですけど、動画を実写にチェンジした瞬間に伸びた人がいたので自分も変えてみたり。「Overdose」を出す一個前に初めて実写を出したんですけどそれはちょっと暗くて、明るい時間帯に撮ってみたのが「Overdose」だったので、「これがいけるんだ」みたいなことを思いました。

ー音楽のトレンドもそうだけど、TikTokの中の音楽系動画のトレンドも変わりますよね。今も自分で撮影・編集してるんですか?

なとり:はい、しょぼい編集ですけど(笑)。

ーいやいや。「ミュージシャンが動画の撮影・編集センスも必要な時代なのか」と思うこともあるけど、それはトレンドやアート全般へのアンテナが長けているからこそできることだなと思います。これも資料に書いてあることですけど、「トレンドと、なとりのエッセンスをぶつけ合わせるとどうなるのか」を考えたと。「Overdose」に入れた自分のエッセンスとは、具体的にどういうことを考えていたのでしょう。

なとり:さっきも言った(歌声の)音域がひとつあるのと、これはあとから知ったことですけど、ベースラインとかも音楽理論的には破綻していることをやってると人から言われたりして。あとは僕、音楽で一番大事だと思っているのが裏拍、ゴーストノートで。それと、メロディの中でもったいない部分を作らないこと。全部メロディで埋めたいんですよ。白玉で「テー」って伸ばすじゃなくて、「テッテッテッテテテレ」みたいにいきたくて。無駄なものを作らないことはめちゃくちゃ意識していて、それがなとりのエッセンスなのかなと思っています。

ー今、いろんな人がなとりさんに「どうやったらバズりますか」って聞きたいところだと思うんですけど、そう聞かれたらどう答えますか。

なとり:ええ!?(笑)。「いい曲を作る」ですかね。これは僕にも跳ね返ってくることなんですけど。なんなら僕も「どうやったらバズりますか」って聞きたいくらいなので。「いろんな曲を聴いて、いい曲を作る」ということしかないですね。

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