なとりロングインタビュー 海外も魅了する若きヒットメーカーの素顔

SNSに対する感謝と困惑

ー「Overdose」がバイラルしている最中に書いたのが、SNSをテーマにした「食卓」?

なとり:いや、これは「Overdose」のちょっと前で。「猿芝居」のデモを投稿したときにたくさん反響があったんですけど、コメントが全部悪口だったんですよ。「パクリ」とか「聴いたことある」みたいなこと言われてイライラしたんですよね。「悲しい」よりも「なにを言ってんだこいつら」みたいに思って。ちょうどTikTokの曲が悪い意味で揶揄されている瞬間とかもあって、「こいつら全員ぶっ殺す」みたいなテンションで1曲作ろうと思ってできたのが「食卓」。バカにしてるやつらを食い殺すみたいなイメージで作りました。TikTokを見ていると、スワイプしてる瞬間がご飯食べる円卓を回しているように見えて、それで作りましたね。

ー“「生命」の食卓の上を”という表現がいいですよね。

なとり:ああ、ありがとうございます。批判をしてくる人ってSNSに生命があると思っていて。それを食ったら、こいつらめちゃくちゃしんどいだろうなと思って。でも食べますよっていう。とにかくヴィランになったつもりで書きました。“「生命」の食卓”にはいろんな意味がありますね。結局、食卓に並ぶものも生命じゃないですか。いろんなことを表現できる一節だったので、その言葉を選びました。



ーなとりさんの楽曲は2023年に2023年にSpotifyの再生回数が1.5億超えで、「Overdose」は「海外で最も再生された国内アーティストの楽曲」13位にランクインしている。このチャートを見ると、たとえ大型アニメのタイアップがついていたとしても「SNSをどう使うか?」を考えることは欠かせない状況になっていることがわかって、「Overdose」もその功績の中に入っているわけですけど、SNSの使い方の良し悪しについてなとりさんはどう考えていますか。

なとり:SNSはなくなればいいのにと思っているんですけど、でもSNSがないと僕は絶対に売れてないので感謝していますし、今後もSNSがないと聴いてもらう入口がなくなってしまう。だから「あってほしいし、なくなってほしい」と思っているんですけど……僕も含めて思うんですけど、若い人たちが使っちゃいけないのかな。ある程度、考え方とかも大人になってきたら使うべきものなのかなと思う。10歳が「死ね」とか言ってるの、普通にやばいじゃないですか。いろんな制約があるSNSとかができればいいなとか思ったりします。

ー子どもたちがSNSのちょっとした出来事で人生を踏み外してしまうのも危険だし、「死ね」とか書き込んじゃう行為を続けた上でどういう人間性になっていくのか、というところですよね。

なとり:マジで。それこそ僕もなんですけど、将来が不安なんですよ。SNSで育った人たちが今後どう生きていくのかなって。無法地帯になったら超怖いなと思うので、僕らの代がもうちょっと大人にならないとなとは勝手に思っているんですけど。

ー将来や次世代のことを考えると、その責任が自分たちの代にあるんじゃないかと。

なとり:そうですね。それは音楽でもものすごく感じていて。上質なポップスをリバイバルさせないと思っているのもそう。たとえばその辺にいる小学生がアカペラで作った曲が世を席巻する未来とかも、もしかしたらあるかもしれないから。だからちゃんといいポップスを作らなきゃと思ったりします。



数字や反響へのリアルな本音

ー自分の音楽がアジアでも聴かれていることに関しては、どのように分析されていますか?

なとり:TikTokが入り口ですけど、最近はJ-POPが許容される時代になっていると思うというか。藤井 風さんがポップスの輪を広げてくれたのかなと思ってます。「死ぬのがいいわ」は日本語の曲だけど、あの人が聴いてきた英語圏やアジア圏の曲がうまくミックスされていて、それがいろんな国からの入り口になっている。藤井 風さんからいろんな輪が広がっていってるのかなとはすごく思ってますね。

ー自分の曲が韓国・ベトナム・マレーシア・タイ・シンガポールのSpotifyバイラルチャート1位を取るほど聴かれていることは、率直にどう感じますか?

なとり:嬉しいですね。今、SNSのフォロワーの半分くらいが日本以外の国の人で。ちょっと困惑はするし、知らない言語でDMとかが送られてくるので怖いですけど、やっぱり「聴いてくれてありがとう」と思ってます。でももう来年が怖いです(笑)。新しい人たちがバンバン生まれてくるんだと思ったら、怖いですね。
ーご自身のメンタルとしては、安心する余裕もなく、という感じなんですね。

なとり:ないですね。今も泣きそうになりながら曲作ってます(笑)。

ーめちゃくちゃリアルだ。数字だけ見ると「1.5億再生」とかとんでもない領域に達しているように見えるけど、実感としては「明日なき戦い」みたいだということですよね。

なとり:いやあ、そうですね。早く安息が欲しいです。

ーどういう状態になったら安心、安息を得られるんだと思いますか?

なとり:なんだろうな。それこそVaundyさんくらいヒット曲があったら、すぐにやめたいですね。その栄光があるまま終わりたい(笑)。もっとヒット曲が欲しいなと。まだ全曲知られているわけでもないので、そうなりたいなと思いながら日々頑張ってます。

ーなとりさんのアルバムを聴いて思ったことでいうと――多くの人が器用に音楽も動画も作れちゃう時代にこうやって残り続けられるアーティストとはなにかを考えると、作ってる人の心の扉が閉まってないか、心を見せることに恥じらいがないか、それを上手く表現できているか、人々が生きる上で必要とされるものかどうか、というところな気がしていて。なとりさんの場合、痛みや影まで見せていて、その思想がちゃんと誰かの心に伝わっているからこそ、1曲のバズで終わらないアーティストとして確立しているんだなと思います。

なとり:嬉しいな。いやあ、めっちゃ嬉しいです。本当に。

ー「ラブソング」のライナーノーツに書いていた「美しいってものすごくグロいもの」という美学も、なとりさんの音楽全般に表れているものですよね。100%美しい装いのものって、なんか嘘くさいじゃないですか。

なとり:それはめちゃくちゃ大事にしてます。『魔法少女まどか☆マギカ』とかって、グロいけど結局美しいんですよね。それを逆に捉えたら、美しいものってグロさがあるんじゃないかなと思って。「ラブソング」はグロい音が何個かあるんですよ。でもそれがちゃんと美しくポップスとして昇華されているので、そういう思想のもとで作ったかもしれないです。



ー最後に改めて。今後はなにを大事にして曲を作っていきたいと思いますか。

なとり:アルバムでいうと、前半には今までなとりが一番デカい層に向けて作った曲を置いていて、後半がこれから自分の作りたいものを意識して作った曲で。さっきも言ったように、昔の人たちが作ってきたような上質なポップスをリバイバルさせることが一番念頭にあります。でもだからといって最新のポップスを捨てるわけでもなく、ちょうど融合できる曲を作りたいなと思います。




なとり
『劇場』
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2024年4月5日(金)大阪・Zepp Osaka Bayside
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