THE SPELLBOUNDが語る、ブンブン中野とノベンバ小林にしか表現できない「領域」とは?

小林はBOOM BOOM SATELLITESから、人生で一番の敗北感を味わっていた

―2019年4月20日にTwitterでヴォーカリストの募集をかけて、それに応募してきた人の一人が小林さんだったそうですね。小林さんがその募集を見てすぐ中野さんに連絡をしたのは直感的な行動だったそうですが、今振り返ると、どういう衝動が大きかったんですか? 「他の人にやらせたくない」なのか、「中野さんに引き続き音楽を作って欲しいから」とかなのか。





小林 いろんな感情が、その一点にゾワーって湧き上がってきたと思うんです。そのときは本当になにも考えてなかったんですけど、よくよく思うと、今おっしゃってくれたようなことはもちろんそうだし。かっこ悪い言い方ですけど、単純に、「俺のほうがブンブン好きなんだからな!」と「俺のほうが相応しいに決まってる!」みたいな、ちょっと子どもめいた気持ちが強かったかもしれないです。僕にとってのブンブンというのが、ある種、十字架みたいになってるところがあるんですよ。

―十字架、ですか。

小林 THE NOVEMBERSがブンブンの北海道公演(2015年5月、札幌cube garden公演)に呼んでもらったときがあって、そのときに人生で一番の敗北感を味わったんです。接戦して負けたときの「うわー、負けたけど清々しい、もっと頑張るぞ」みたいな惜しいものじゃなくて、「もう試合にならなかった」みたいな。それまでもいろんな憧れの先輩や好きなミュージシャンと対バンしてきたんですけど、「俺たちは負けてないぞ」とか「俺たちのほうがよかった」というのを気持ちだけでも僕は持ち続けて共鳴してきたわけなんです。でもブンブンとやったときに関しては、1曲目が終わる前くらいから全然次元が違うのを感じて、落胆と、今鳴ってる音楽に興奮してる自分とかがない混ぜになって、もうムンクの絵みたいな感じになって。

中野 はははは(笑)。

小林 心の中でむちゃくちゃになりながらライブを観てたんですよ。そのときの感覚を忘れられなくて。僕はブンブンのいちファンであると同時に、もう太刀打ちできる次元じゃないという敗北感と、いろんなショックみたいなものがあって、祝福と呪いを同時に受けた感覚だったんです。「もっと頑張れよ、こんな世界があるんだぞ」って見せてもらえたような祝福と、「全然話になんないわ」みたいなことを打ち付けられたというか。それで中野さんがヴォーカリスト募集してるのを見たときに、自分が受けたショックとか全部を含めた上で、中野さんにしか行けない領域に自分も行ってみたい、自分にもそういう景色を見せて欲しいという好奇心や希望もあったかもしれないです。

―具体的に、ブンブンのライブにおけるどういう点にそこまで感じられたんですか?

小林 楽器がドーンって鳴った瞬間の「もうこの音最高」「これだけでもずっと聴いていられる」みたいな音の気持ちよさとか好きさ加減ってあるんですけど、楽曲全体がそれに満ちた空間なんですよ。しかも、まさに時間芸術で、時間が経つにつれてどんどん風景が変わっていって、それがお客さんとリンクして目の前で熱狂が起こってる。僕は、クールな音楽にお客さんが熱狂してる場面って、日本にいるとほとんど目の当たりにしなくて奇跡だと思ってるんです。よくも悪くもお客さんに寄せていったり、形骸化したスタイルとかもてなし方でお客さんを乗せていくというライブを僕はたくさん見てきて、正直羨ましいと思ったり純粋に感動できるライブもあれば、「僕はこのコミュニケーションを美しいとは思えない」というプライドとか、いろんなものがあったんですよ。自分が熱狂を目の前で作れていないことに対して折り合いをつけてるところもあったかもしれない。ブンブンはものすごくクールなことをやっていて、お客さんを盛り上げることも、媚びてるとかではなくて「一緒に高いところに上っていこうぜ」という気概に溢れてるわけなんですよ。そんな濃厚なもので満たされたライブで、ドラマや熱狂もあって、ステージから去っていったら終わらない拍手と歓声があって。……もう、灰になっちゃう、みたいな。

―ムンクの叫びからの灰(笑)。

中野 こんなに褒められたことないよ(笑)。

小林 だからその日、打ち上げに行って中野さんと川島さんと話をさせてもらったんですけど、正直、「心ここに有らず」みたいな感じで。

中野 そうだったのか(笑)。

小林 ここで酒なんか飲んでていいんだろうかみたいな気持ちもあったし、「自分たちのライブどうでしたか」とかも聞きたくない、ってなってました。

中野 鉛を飲み込んで胃が重いような感じです、みたいなことを言われたのを覚えてる(笑)。

RECOMMENDEDおすすめの記事


RELATED関連する記事

MOST VIEWED人気の記事

Current ISSUE