西岡恭蔵とKURO、世界旅行をしながら生み出した楽曲をたどる



田家:やっぱりこれは選ばれますね。

中部:ええ。これはですね、2人で中米、メキシコ、カリブ海、あのへんをずっと旅行して、ロサンゼルスで録音するという贅沢なことをやるんです。この夫婦2人の“音楽商会”はお金持ちですからね。大黒字経営をやっているわけですから、海外録音までやってしまう。しかもソー・バッド・レビューと一緒になってやっているわけですから。彼らも自分たちのアルバムを作りに来ているんだけども、今聴いていたホーンの部分は現場で雇ったミュージシャンたちなんですよ。そこに投資しちゃうという、かっこいい夫婦なんですよね。

田家:ミュージシャンは石田長生さん、ギター・山岸潤史さん、ピアノ・国府輝幸さん、ベース・永本忠さん、ドラム・土居正和さん、ボーカル・砂川正和。ソー・バッド・レビューですもんね。

中部:彼らも、自分たちのアルバムのためにロサンゼルスに録音に来ていることもあるんですけど、ロスでスタジオを借りたりミュージシャンを雇ったり、そういうお金を含めて相当な投資を恭蔵さんとKUROさんはしているんだと思うんですよね。

田家:もともとはお金がなかった夫婦ではあるわけですけれども(笑)。2人が結婚したのは1977年12月で、神戸の教会で結婚式を挙げたんですが、新郎新婦の両親は参列してないんですもんね。

中部:してないんです。2人で独立しようという気持ちも強かったんだと思うし、あながち、すごい反対があったということではないとは思うんですけどね。たった2人でこれから生きていく決意表明みたいな結婚式だったらしい。まさにそのままに2人で海外へ旅行に飛び出しちゃうんです。その頃はお子さんがいるんだけど、実家に預けて行っちゃうんです。今で言うと、バックパッカーみたいな旅行をするんですよね。

田家:メキシコ各地、バハマ、ニューオーリンズ、北米。そしてロサンゼルスでアルバムを作る。この旅行記もお読みになっているんでしょう?

中部:これは現物の旅行日記が残っていないんです。ただ、アルバムのライナーノーツに一部出ているんですね。そこをちょっと参考にしたんだけれども、この年はアメリカの建国200年、バイセンテニアルの年なので。たまたま僕も実はその頃アメリカに長い間いたので、そのときの感じがすごく分かるんですよ。アメリカがベトナム戦争で50年代、60年代の輝きを失っちゃうんだけど建国200年というのでパッとこの年だけは明るい年なんです。まだ本格的な不況が来ないから、アメリカが一時期明るさを取り戻したときなんですよね。そこに恭蔵さんたちがいて、そこの空気を吸いながら自由に作った1枚で、こういうことをやっていた人は他にあまりいないんじゃないかと思うんですけどね。

田家:加藤和彦さんと安井かずみさんが、やっぱりそんなふうに世界を旅しながら創作したカップルとしては有名ですけど、このアルバムの旅はその2年ぐらい前ですからね。恭蔵さんたちの方が早いですね。

中部:恭蔵さんたちは、これをシリーズ化していくというか、贅沢な話なんだけど、1~2ヶ月の旅行をしてはアルバム1枚分を作詞作曲して帰ってくるようなことに繋がっていっちゃうんです。すごい旅行好きな夫婦でもあるし、旅先で曲を作っていくというのは1つの方法論でもあるんですよね。

田家:そうでしょうね。今お聴きいただいた「南米旅行」はメキシコのテオティワカン。そのピラミッドを見ながら書いたと本の中で出てきました。

中部:本当にロマンチックなんですよね、この2人は(笑)。やることがロマンチック。

田家:それでは今日の2曲目はアルバム『南米旅行』から「アフリカの月」です。

Rolling Stone Japan 編集部

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