レッド・ホット・チリ・ペッパーズの人間性に迫った、2000年の秘蔵インタビュー

「俺はすごく傷つきやすい弱虫なんだよ」(フリー)

食事を済ませると、ソロアルバムの制作現場にしている小屋を少しだけ見せてもらった後、我々は彼のTVルームに移動した。巨大なプロジェクターセットの用途は、レイカーズの試合観戦にほぼ限定されている。我々は『Californication』について語り始めた。同作の制作期間は、フリーにとって決して幸せな時期ではなかった。5年間付き合っていたガールフレンドとの破局に打ちのめされ、眠れない夜が続き、幾度となく涙を流し、何もせずにただ胎児のように丸くなっていたかったという。毎日スタジオに向かうために、彼が必死で自分を奮い立たせていたのは、音楽に没頭している間だけは安らぎを得られたからだ。それでもなお、彼は数十分おきに急激な不安に襲われ、全身汗だくになっていたという。

殺伐とした心境が続いた数カ月間から得られたもの、それは悲しみに正面から向き合ったという自覚だった。1990年にクララの母親と別れた時にも同じ苦しみを経験したが、彼の対応は違った。「あの時はただハイになって、セックスしまくることで忘れようとしてた」と彼は話す。「でも今回は、他の女の子と寝たりしなかった。どうしようもなく冷たくて空虚な気持ちに、俺は正面から向き合った。そうすることで痛みを乗り越えたんだ」

最近イタリアで行われたショーの後、ステージ脇で立ち尽くしたまま涙を流していたフリーは、悲しみで全身を震わせていた。時々、彼は娘に支えられているのを感じるという。「オーストラリアに滞在していたある日、俺は泣いてた」と彼は話す。「その時娘がこう言ったんだ。『何がパパをそんなに悲しませているのか分からないけど、何があってもきっと大丈夫だから。だってパパはすごくいい人だもん』。ものすごく勇気づけられたよ」

前向きさを取り戻した今、フリーは大事にしていた迷信を全て放棄しようと努めている。キッチンからは6歩で退出すること、黒の下着を身につけないこと、本をベッドの上に放置しないこと(アイデアが漏れ出して彼の精神に取り憑くため)など、以前の彼は多くのことを信じていた。「傷つくのが怖くて、俺はそういう迷信をたくさん実践してた」と彼は言う。「それって要するに、宇宙の原理を信じていないってことなんだ。今の俺は何も恐れていない。毎日こう語りかけてるよ。『上等だ、かかってきやがれ』」

悪態というトレードマークを繊細さで塗り変えてきたバンドにおいて、フリーは感情面を象徴する存在だ。「今は怒りに任せて叫びまくるメタルバンドで溢れかえってる」と彼は話す。「多くの意味で、俺たちはその発端の一部だ。ファンキーなサウンドにラップとギターを組み合わせるっていうやり方は、いつしかすごく退屈なものになってしまった。今じゃ右翼やレッドネックの代名詞だ。チリ・ペッパーズにマッチョなイメージがついてることが、俺には以前から不思議で仕方なかった。俺らはしょっちゅうシャツを脱ぐし、アンソニーはセックスについての曲をたくさん書いてる。でも俺は、バンドの曲にはフェミニンなものが多いと思ってるんだ。俺は昔から、ちょっと女の子みたいなところがあったし。すごく傷つきやすい弱虫なんだよ」

フルシアンテの30歳の誕生日に、チリ・ペッパーズはアー写撮影のために集まった。フリーはマジックで「Martian + Laker」と書いたシャツを着ている。「何か重大な意味のあることを書くつもりだったんだけどね」。彼はそう言って肩をすくめた。「なぜか飼い犬の名前で落ち着いちまった」。キーディスはやってくるなり、フルシアンテにハグをした。休憩中、メンバーはテレビの周りに集まって、レイカーズがマイアミ・ヒートを叩きのめすのを見ていた。フリーはスクリーンから30センチほど離れたところで膝をついた状態で、全神経を試合に集中させている。「普段なら、試合中は話しかけられることさえ煩わしいんだ」と彼は話す。

メンバーと数名のスタッフは、フルシアンテには秘密で用意していたチョコレートケーキを出してきて、キーディスがバリトンボイスでハッピーバースデーを歌い始める。フルシアンテは赤面し、口を両手で覆っていた。彼が全ての蝋燭の火を3回かけて吹き消すと、全員から盛大な拍手が送られた。

「何か一言!」スミスがけしかける。

フルシアンテは少し考えた後、一歩下がってこう言った。「うーん、無理」

「俺が代わりにやる!」フリーはそう言って大きく息を吸い、19世紀の演説家のような声で「今日というこの日……」と話し始めると、部屋中が笑い声で満たされた。

時々手に負えなくなる弟のような存在であるフルシアンテに対する彼らの愛情は、外部の人間の目にも明らかだ。「10代前半の頃はさ」とフリーが話す。「アンソニーと俺と仲の良い友達何人かは、互いに成長を促し合うような関係だった」。レッド・ホット・チリ・ペッパーズは友情から生まれ、ヘロインによって分断され、音楽によって再び1つになった。彼らは今でも、それぞれの自宅まで車で10分程度の場所に住んでいる。バンドとして17年の月日をくぐり抜けてきた彼らは、一見奇妙だが分かち難い絆で結ばれた家族なのだ。





<INFORMATION>


『Unlimited Love / アンリミテッド・ラヴ』
レッド・ホット・チリ・ペッパーズ
ワーナーミュージック・ジャパン
発売中

https://RHCPjp.lnk.to/ULJPPu

Black Summer / ブラック・サマー
Here Ever After / ヒア・エヴァー・アフター
Aquatic Mouth Dance / アクアティック・マウス・ダンス
Not The One / ノット・ジ・ワン
Poster Child / ポスター・チャイルド
The Great Apes / ザ・グレイト・エイプス
It’s Only Natural / イッツ・オンリー・ナチュラル
She’s A Lover / シーズ・ア・ラヴァー
These Are The Ways / ジーズ・アー・ザ・ウェイズ
Whatchu Thinkin’ / ワッチュ・シンキング
Bastards of Light / バスタード・オブ・ライト
White Braids & Pillow Chair / ホワイト・ブレイズ・アンド・ピロー・チェアー
One Way Traffic / ワン・ウェイ・トラフィック
Veronica / ヴェロニカ
Let ’Em Cry / レット・エム・クライ
The Heavy Wing / ザ・ヘヴィ・ウィング
Tangelo / タンジェロ
Nerve Flip / ナーヴ・フリップ(※日本盤ボーナストラック)

Translated by Masaaki Yoshida

RECOMMENDEDおすすめの記事


RELATED関連する記事

MOST VIEWED人気の記事

Current ISSUE