SNARE COVERが語る音楽生活20年の歩み、井手上漠の人生をテーマに書いた新曲

ー事前に色々と準備をされたそうですね。どういう話になるのか、ある程度のイメージを固めて臨まれたんですか?

はい。ジェンダーレスについての葛藤が大きな話題になるだろうと思っていたんです。だけど実際にお会いすると、そういう葛藤や概念は超えているように感じたんですよね。性別や周りの目に対する辛さは乗り越えている、凜とした感じがあったんです。僕が当日、用意していた質問内容はデリケートな話題が中心だったんですけど、それよりも突き抜けた感覚を得ましたね。

ーじゃあ前々から井手上さんの曲を作っていたと言ってましたが、ご本人とお会いになって楽曲の方向性も変わった?

そうなんです。すでに2、3曲のデモを作っていて、このどれかがハマるかもしれないなと思っていたんです。だけど、用意していた中から作るのは止めて、新たにインスピレーションを受けたもので楽曲制作をしようと決めました。

ーお話しした中で、胸に刺さった言葉はありましたか。

「好きなものは誰にも奪えない」という言葉を聞いて、すごいショックを受けたというか色んな感情が浮かんだんです。その答えに到達するまでに、僕には想像できないような経験をしてきたと思ったし、漠さんはまだ19歳ですけど年齢は関係ないんだなって。あの若さでその真理を持っているのは、この先どんなことをやっても強いし、どこにいても自分でいられるはずで、その感覚を自分も持ちたいなと思いましたね。

ー先日、お2人が共演したラジオを聴いて驚いたんですけど、インタビューしたその日に電車の中で歌が降ってきたんですよね。

僕も不思議でしたね。インタビューの帰りに、ホテルへ向かう電車の中でサビのメロディと言葉が一緒に降ってきたんですよ。「これを忘れないように、どこかで形にしなくちゃいけない」と思ったんですけど、札幌の人間なので東京のどこにスタジオがあるのか分からないから、近くのカラオケボックスを探して、そこで今作のベースを作り上げました。

ー今振り返ると〈遥か 聞こえてくる〉のフレーズが最初に浮かんだのは、どうしてだと思います?

それは漠さんの奥深さや美しさ、突き抜ける感じが大きいと思います。心のすごい奥にある遠くの方から何かが来る感覚とか、自然だと山の遠いところから神聖な感じで何かが来る、そういう突き抜ける感じが音像に現れたのかなと。



ー今回の歌詞は井手上さんのことを説明しすぎず、だけど短いワードに意味を凝縮をしている印象を受けたんですよね。

嬉しいです。まさに、そういう感覚が自分にもあるので。

ー曲を聴く前は、苦労や葛藤を抱えてきた井手上さんの陰の部分に迫った曲なのかなと思ったら、実際は逆で。希望を持って育った町を出ていく力強い曲になっていました。

やっぱりキャッチーなのは、そういうデリケートなところですよね。ジェンダーレスだからこそ、性別のことで苦しんできたりとか、それを乗り越えてきたストーリーは確かに分かりやすい見せ方だと思います。ただ、本来の漠さんから感じるものは何か? という視点がないと、楽曲として良いものにならないですし、漠さんに対して失礼になってしまう。漠さんが今何を感じていて、今何を大事にしているのか。そういう等身大の想いが反映されてないといけない。当日会った発言や姿から感じた中で、一番僕が思ったのはポジティブさでしたし、あと性別の壁に拘っていないところとか、「みんなが思っているよりも、全然大丈夫なんだよ」という想いをすごく感じたんですよ。

ー世間の表面的なイメージとは違った。

辛いけど、なんとか頑張っていこう! って感じよりは「周りの目を気にせず、もっと好きなことをやっていいんだ」という気概が溢れていたので、そこを曲にも出さないといけないと思いました。そもそも僕の音楽が、ガンガン歌詞を詰め込むタイプじゃなくて、言葉の持つ響きの美しさも大事にしているので、どうしても韻を踏ませたいこだわりもある。響きの美しさも踏襲しつつ、歌詞の内容も濃くするのは本当に難しい作業でした。僕だけの力では出来なかったですし、コライトしてくださった皆さんの意見もたくさん反映されていて。漠さんと長いお付き合いのある方々の声も取り入れさせてもらい、ようやく完成した1曲なんですよね。

ーメロディやアレンジを考える上で、大事にされたことはなんですか?

僕が音楽を作る上で、メロディが最上位にあるんですよ。それだけ自分のメロディを信じてるところがあって。あまり理論的というよりも、感覚的にこれが良いなと思って選んでいる感じなんです。アレンジに関しては、デモ段階で大まかに2パターンありまして。自分がやりたいようにやったキーの高いバージョンを最初に作ったんです。だけど、それだと言葉が伝わりにくいかもしれないし、初めて聴く人にはマニアックに聴こえてしまう可能性を危惧して、少しキーを下げて歌詞を聞き取りやすくしたバージョンも作りました。後者に決まりかけたんですけど、やっぱり自分にしかできないものを届けたいと思って前者のバージョンを採用してもらいました。

Rolling Stone Japan 編集部

Tag:

RECOMMENDEDおすすめの記事


RELATED関連する記事

MOST VIEWED人気の記事

Current ISSUE