大江千里が今だから語りたいマイ・ソング、デビューから87年までを本人と振り返る

YOU / 大江千里

大江:これは大変でしたね。僕はアップテンポな曲って書けないんですよ。僕はカーペンターズやギルバート・オサリバンとかの世界観に影響を受けてきた。でも「チャ!チャ!チャ!チャ!チャン!フ~!」とかっていうのは新しい引き出しを開けていかなかきゃいけない。「逆向きの」ってところまで書いたら疲れて横になるぐらい(笑)。「逆向き」って歌詞を何回繰り返して変えたか。

田家:やっぱ、詩が先でそれに曲をつけてくみたいな感じだったんですか?

大江:いや、弾きながらメロディと詩を一緒にですね。「逆向きの地下鉄に揺られて」って歌詞の「揺られて」って部分ができたら次が出てくるっていう。鼻濁音があると次は「あ」とか「か」とかが出てくる。音の煌めきと濁りを徐々に混ぜながら自分で景色を作っていくっていうか。サビまで我慢して「君だけを」って歌詞の「だ」のところでパーン!と広げる感じ。そこにピークを持っていったという感じですね。

田家:アルバムに付いているブックレットには大江さんの解説が入っているんですが、「YOU」の解説では引退も考えたと書いてあります。そうだったんですか?

大江:書けないし、毎回「これが最後だ」「もうこれが終わったらやめる」って思いながらやっていましたね。曲を書いたら次のツアーで全てを出し切って終わろうっていう感じで。でも最終日とかその前の日とかにいいのが出来ちゃって辞めれなくなってまた次を作ってって。もうその繰り返し。

田家:85年の「REAL」を作っていた時には失踪してるっていうのも書いてありましたが。

大江:そうなんですよ。『未成年』の中に入ってる「REAL」って曲の詩が書けなくて。歌を録りに一口坂スタジオに行かなきゃいけないのに詩ができていないから公園でずっと詩を書いて(笑)。「リアルに生きてるか 誰にも邪魔されず 憎む全てを消せなくて 泣いたりしていないか」って歌詞を書くのに苦労しました。「泣いたりしていないか」の着地まで持っていくための緊張感あるフレーズが思い浮かばなくて。何台も中央線を見送りながら失踪しましたね。なんとか最後スタジオに行って、一口坂スタジオのみんなの姿をガラス越しに見ながら手前のトイレに入ってしゃがんで「泣いたりしてないか」って着地まで詩が書けて。バァーーっとスタジオに入っていって「詩ができました!」って言って。汗ダラダラになったままヘッドホンを付けて歌入れをしたのを覚えています(笑)。

Rolling Stone Japan 編集部

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