ミック・マーズが愛憎のバンド人生を語る、さらばモトリー・クルー 

現在のパートナー、セライナとの出会い

2007年にモトリー・クルーは、いくつかのメタル・フェスに出演するためにヨーロッパに渡った。そこでマーズは、セライナ・シェーネンベルガーという23歳のフォトグラファー/モデル/ギタリストと出会った。数カ月前にSNSでメッセージをやり取りしていたが、実際に会うのは初めてだった。マーズの投稿にセライナが反応したのをきっかけに、ふたりは直接メッセージを交わすようになった。「週末なんてクソくらえ。どうせろくでもない一週間が続くんだ」的な意味のメッセージをセライナに送った。それ以来、2人は一緒にいる。

2013年に2人はマリブからテネシー州ナッシュビルに引っ越した。もっと静かで広い家に住みたかったのだ。引っ越してからは、広大な裏庭にジャグジーと深さ約3メートルの巨大なプールをつくった。セライナがすべてのプロセスを監督している。インタビューを行った今日は、まさにカオスといった状況だった。作業員たちが水を補給しにいったタンクローリーが戻ってくるのを待つ間、セライナは忙しそうに動き回っていた。階段を駆け上っては作業員の質問に答え、マーズのレコーディング・スタジオのブレーカーが落ちると、ダッシュで降りてスイッチを入れる。その間、バーベキューグリルでロースト中の肩ロースのことも忘れない。別の時は、自分よりも大きな椅子を軽々と持ち上げて細い階段をのぼっていた。セライナは愛情を込めてマーズのことを「マーズマン」と呼び、助けてほしそうな時は作業をやめて彼のもとに駆けつける。

長いさよならツアーを終えて2015年にバンドが活動休止すると、マーズはセライナと幸せな時間を過ごした。その一方でバンドは、「ツアー停止契約書」なるものに署名していた。今後のライブ活動は一切行いません、というものだ。バンドは契約書をメディアに公開しなかった。そのため、誰もがチケットの売り上げを伸ばすための策略だと踏んだ。だがマーズは、契約書は存在したと誓う。その裏付けとして、「またツアーをやることになったら、みんなにチケットをおごる」という2014年のインタビューでの発言を引き合いにした。「それくらい真剣に、俺たちは終わったと思っていたんだ。あの契約は本物だと思っていた」とマーズは言う。

さよならツアーを行うほぼすべてのバンドの例に漏れず、モトリー・クルーのツアーはひどいものだった。それでも2022年には、ツアー停止契約を破棄してツアー活動を再開した。理由は、2019年に公開された映画『ザ・ダート:モトリー・クルー自伝』によってバンドへの関心が高まったからだ。「映画が公開された時、次になにが起きるかわかっていた」とマーズは語る。「仕方ない、またツアー生活に戻るか、と覚悟を決めた。でも、実際はクタクタだった」

ツアーバスや空港、ホテル——そしてバンドメンバーたち——と無縁の7年を経て、いまさらツアー活動に復帰するのは問題外だった。マーズは、リハーサル前に今回のツアーが最後だとメンバーに宣言した。「こう言ったんだ。俺は引退するわけじゃない。ラスベガスのレジデンシー公演であれ、ニューアルバムのレコーディングであれ、好きにすればいい。俺は喜んで手を貸す。一夜限りのライブも任せろ。ただ、ワールドツアーだけはもう勘弁してくれ」

Translated by Shoko Natori

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