ミック・マーズが愛憎のバンド人生を語る、さらばモトリー・クルー 

マーズの訴え、シックスの主張

強直性脊椎炎が進行し、首を左右に動かせないほどになっていた。真っ直ぐ立つこともできなかった。高校生の頃よりも、少なくとも8センチくらいは背が縮んだようだ。「俺の脊椎は、一本の硬い骨になってしまった。まるで額から20キロのコンクリートの塊が吊るされていて、いつも下に引っ張られているような感覚だ」

それでもマーズは、すべての公演をこなした。もともとは12公演で演奏すると合意していたが、ツアーは延期されて36公演になった。その間、マーズは常に激痛と闘っていた(マーズの背中はすでに「?」のような形になっていた)。腰の曲がった自分の姿を動画で観るのは、もっと苦痛だった。「骸骨みたいだ」とマーズは言った。「そんな自分を動画で観るのは大嫌いだ。でも、杖は使いたくない。車椅子もごめんだ。自力でステージにのぼれないなら、俺はステージに立ちたくない。自分の外見が気に入らないし、そんな姿でステージに立つのは居心地が悪い」


最後のツアーでのニールとマーズ。2022年ジョージア州アトランタにて。KEVIN MAZUR/GETTY IMAGES FOR LIVE NATION

2022年10月27日、ニールとリー、シックスは声明を発表した。そこには「変化は決して簡単なことではないが、我々は健康上の理由からミックがバンドを引退するという決断を受け入れることにした」と書かれてあった。「我々はミックの意思を尊重し、2023年のワールドツアーを予定通り行う」。その一方、マーズのほうから何の発表もないことにファンは違和感を覚えた。それからしばらくして、ファンは2023年4月6日に全貌を知った。マーズがメンバーを訴えたのだ。バンドから不当に解雇され、関連企業7社から今後は利益が得られないような取り決めをされた、というのがマーズの主張だ。提出された訴状はなんと全29ページというボリュームで、そこにはバンドのもっとも暗い歴史にスポットライトが当てられている。ニールとリー、シックスの3人は、これでもかというくらいの極悪人として描写されていた。

「(マーズ以外の)メンバーの2人は、バンド時代はほとんどヘロインに溺れていた。そのうちの1人は、重度のアルコール依存症も抱えていた」。訴状はさらに続く。「(マーズ以外の)もう1人のメンバーは暴行を繰り返したことで執行猶予を言い渡され、最終的には何度も妻を蹴った家庭内暴力の疑いで重罪判決を受けた。彼女は、妊娠7週目だった」

マーズの訴状の中でもっとも注目されたのが、2022年のツアーでのシックスの演奏に関する記述だった。「北米ツアー中、(シックス)は一音もベースを演奏していない。シックスのベースパートは、100%予め録音されたものだった」とマーズは主張した。

これに対し、バンドは7人のツアークルーからの証言とともに反論した。シックスはベースを生で演奏していたと宣言した一方で、時折曲を忘れたり、間違って演奏したりしたのはマーズのほうだと主張したのだ。ステージ上でたまにミスをしたことについてはマーズも認めているが、「俺は、ステージ上で妨害行為にあっていた。しくじれば俺をクビにして、別のギタリストを入れられるから」とネガティブな解釈をしている。「イヤモニから返ってくる音はひどかった。音割れしているんだ。ほかのメンバーはそうでもなさそうなのに、俺の音だけ割れている。慣れない新曲を覚えようとしている時もリハで収録したクソみたいな音源にスイッチされる。あいつらは、俺のメンツを潰すためにこんなことをやっていたんだ」

「まったく正気じゃない」とシックスは反論した。「どうしてファンの前でそんなことをしなければいけないんだ? 俺たちがミックのレガシーを守ろうとしているのに、ミックと代理人たちがファンに嘘を撒き散らしていると考えると胸が痛む。俺たちは、マーズのことを心の底から愛している。それなのに、こんな被害妄想に囚われているなんて、まじでおっかないよ。リハに来た時、ミックはギターをきちんと弾けなかった。何度やってもダメなんだ。だから、仕方なく録音済みの音源でカバーした。当て振りをしていたのは、マーズだけだった」


ミック・マーズ、2023年撮影。QUYN DUONG FOR ROLLING STONE

Translated by Shoko Natori

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