グライムスが明かす、自身の素顔と超越したヴィジョン「カオスこそが私のブランド」

「裕福な家庭における問題児」のようなLAでの暮らし

彼女は現在、ロサンゼルスにある有名ホテル系列の煌びやかなキッチンを備えたゲストハウスにいる。周辺に立ち並ぶその建物すべてを所有するのは、彼女と2年にわたって交際を続けているテスラの創設者イーロン・マスクだ。彼女はお腹の子供の父親が彼であることを認めている。2人は現在、その家からは見えないが近くにあるという別のゲストハウスで同棲している。マーベルのTシャツの下に着たペイズリー柄のタートルネックの袖からタトゥーをのぞかせている彼女が、裕福な家庭における問題児のようにどこか浮いてしまっていることは否定できない。

首元には2つのシルバーのネックレスが光っている。片方にはコンセントのミニチュアが、もう片方にはシガレットホルダーの模型がぶら下がっている。「タバコは吸わないの」彼女はそう話す。「でも妊婦がシガレットホルダーのアクセを身につけるっていうのが、何だか挑発的な行為に思えるの」。スウェットパンツを履いている彼女は、単に無駄だからという理由で妊婦用の服は買わないことにしている。柔らかいデニム生地でできている足元のブーツは、自分をタトゥイーンの住人のように見せてくれるところが気に入っているという。

彼女はウォークインクローゼット内に作っていた、iMacと数点の楽器だけという極めてコンパクトなスタジオの移動を終えたばかりだった。先日リリースされた5枚目のアルバム『Miss Anthropocene』の大半を作ったその小さなスタジオは、当時彼女が妊娠初期のつわりに悩まされていたことを理由に、あえてベッドの近くに設けられていた。筆者の訪問をいい機会だと捉えた彼女は、昨夜全ての機材を上階の寝室に移動させた。



艶のある濃い木目の階段を上り、彼女は紅茶の入ったカップを手に取った。ベッド上のターガリエン家のブランケット(『ゲーム・オブ・スローンズ』のファイナルシーズンについて彼女は独自の見解を持っているが、世間の評価についてはアンフェアだと感じているという)など、その寝室は彼女らしさに満ちている。コーンのシグネチャーモデルの7弦ギター(彼女はニューメタルに目がない)や、『Miss Anthropocene』のハイライト「Idoru」で使われているデジタルのメロトロン、そしてGoogleが製作した実験的AIシンセだという真四角の金属の物体など、壁際には様々な楽器が設置されている。安物の折りたたみ机の上に置かれたコンピューターの両脇には、レディ・ガガとの仕事で知られるプロデューサーBloodPopと最近物々交換したハイエンドのスピーカーがある。

その向かいにある窓からは、風に揺れる木々や広大なゴルフコース、そしてその向こうに広がるロサンゼルスの街並みという、まさに10億ドルの眺めというべき景色が広がっている。差し込む太陽の光に目を細め、クローゼットとは雲泥の差の豪華な部屋を見渡しながら、彼女は肩をすくめてこう言った。「世間ではこういうのを恵まれてるっていうんだろうね」

Translated by Masaaki Yoshida

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