西岡恭蔵「最愛の妻・KUROとの別れから晩年のアルバムをたどる」

I Wish / 西岡恭蔵

中部:このアルバム自体は、KUROさんが亡くなる前に予定していたレコーディングから引き継いでいるんだけど、KUROさんとの別れをたっぷり含みこんだ歌が多いんですね。

田家:KUROさんががんを発病されたときから、そのことが恭蔵さんの日記に書かれているわけで……。

中部:そうなんです。がんが発見されて、手術を決意して、手術をして。それが成功して、1年半くらいは極めて健康な生活を送れるんですけど、転移が起きてしまうということで、KUROさんが亡くなる。その間、普通でいよういようとしている恭蔵さんの心が、すごく温かいんですよね。大げさなことにしないし、でも必死になって2人で闘病していく。でも、最後は脳に転移して、KUROさんが自分で判断をできなくなってくるわけですけれども。そのときに恭蔵さんは病院からKUROさんを連れて帰ってくるんですよ、家に。最期の末期に関しては自分で面倒を見ることを決意するんですね。

田家:体調がよくなったときに帰郷……志摩の方にドライブに行ったり、けっこう2人で旅もされているでしょ?

中部:そうですね。KUROさんも旅行好きだし、海外にはさすがに行けないんだけれど、2人で旅行を楽しんでいる。だから、だんだん残り少ない時間という自覚はあったんだとは思います。

田家:病気が発覚した後の時間をどう過ごすかというのがとても重要なんだなという気がしますね。

中部:それはそうですよね。限りは見えてきてしまうわけだから、そこに向かって自分たちがどう生きていくかが問われるわけだけど、本当に恭蔵さんらしいやさしさに満ちていて、日記の中に出てくる言葉も、本当に愛し合っている人たちってこういう言葉を使うんだなという感じですよ。

田家:別荘に行ったり、彼女の実家の方に行ったり。東北のツアーにKUROさんも途中から参加したりと、本当に旅をしながら人生を全うした2人。

中部:だったと思いますね。恭蔵さんって日記を書いていくうちに詩になっていっちゃうときもあるんですよ。そうするとそれは読んでいる者の心を打つ詩なんですよね。歌詞みたいになっちゃっている。

田家:本の中の随所にその文章が引用されております。中部さんが選ばれた3曲目、『Farewell Song』から「恋が生まれる日」。

Rolling Stone Japan 編集部

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